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        闇を消す風と光と熱

 

                   静かに進むエネルギー革命

 

山の村に暮らしていると、

古老から自分の家に初めて電気が引かれたときの話を伺うことがある。

 

少年のころ、昭和初年のことだそうだ。

闇夜(やみ・よ)が明るくなった話を、昨日のことのように、

鮮明に覚えておいでになり、感銘を受ける。

 

村に最初の電灯が灯(とも)された時代、

電力会社の職員は、仕事に「やりがい」を感じていたことだろう。

村人も大喜びだ。

村の家々、すべてに電気を普及させていくことは、

何年もかかったろうけれど「手ごたえ」のある仕事だ。

昭和初期に私の村を電化していった、

当時の「信濃電灯」の社員の士気は、さぞかし高かったことだろう。

 

世界人口の3分の1、20億人は、

21世紀になっても、家庭用の電気供給が未(いま)だにないそうだ。

今どき、電気のない生活だなんて……。

日本の若い世代には考えにくいことだが、

数十年前のこの国の各地にも、暗い夜があったのだ。

 

 

電気と生活、と言えば、米国では、

風力発電のコスト低減が著しい。

一キロワット時あたりの発電コストは、

1991年から98年の間に18セントから5セント

に下がったという。

 

コストが3分の1以下になったのには、

一基1000万円からした大型の風力発電装置が、

技術革新で300万円程度に値下がりしたことが大きい。

広大な土地に共同所有で高さ60メートルの大風車を建て、

発電して電力会社に売電する――

土地のある農家や牧場主にとって、

「風」は、お金儲(もう)けのチャンスになった。

 

風力発電による発電量が世界一のドイツでは、

まさに「風が吹くと、だれかが儲かる」時代になっているそうだ。

 

 

風など、自然を利用したエネルギーといえば、

日本はソーラー発電用パネルの世界最大の生産国である。

 

ソーラーパネルは、空から降り注ぐ太陽光を電力に変換する装置で、

国内では、建物の屋根などに設置されて家庭用にも普及している。

大規模な送電設備を建設する必要のない分、

その場ですぐに使える発電システムだ。

政府の途上国援助(ODA)など、

海外への援助活動に最適ではないだろうか。

 

信州の若者たちが、ソーラーパネルを背負って

世界中の途上国の村々を回り、電気の明かりを灯して歩く……。

そんな光景を私は夢見てしまう。

ボランティアとは、

何も戦地や被災地を回ることだけを意味してはいない。

「電化ボランティア」がいてもいいのだ。

 

「世界一」ついでに言うと、

日本列島には1万2千の温泉があるといわれ、

地熱発電について世界的な好適地なのだそうだ。

地熱発電を途上国に背負っていくことはできないが、

ご当地で利用するなら、大規模な送電設備がいらない分安く、

しかも送電に伴うエネルギーのロスもなく効率的だ。

何とかうまく活用できないものだろうか。

 

 

世界では今、遠隔地で化石燃料(石油・石炭など)を燃やし

二酸化炭素を排出する発電・送電システムから、

近場で自然エネルギー(太陽光や地熱、風力)を使う発電への転換が、

「もうひとつのエネルギー革命」として、静かに進行中である。

電化された便利な生活を享受している私たちにとって、

地球上の限りある資源を「効率よく利用する」ことも大切な責務なのだ。

 

 

 

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