【書評】「秘密保護法」生まれた背景も

山岡淳一郎 (ノンフィクション作家) 本紙書評委員

2013年6月、米中央情報局(CIA)の元職員
エドワード・スノーデン氏は、英字紙上で米国家安全保障局
(NSA)が通信会社を介して世界的に盗聴をしている事実を告発した。
米政府はスノーデン氏のパスポートを無効にし、
彼は航空機の乗り継ぎ先のモスクワ空港にとどまった。

16年、著者の小笠原氏は留学先のカナダの大学で
ビデオ回線を使ってスノーデン氏にインタビューを行う。
本書は、その記録集だ。
前半の著者個人史は冗長だが、スノーデン氏の話は驚きの連続。
日本政府の米国への隷属ぶりには愕然(がくぜん)とする。

例えば、スノーデン氏は09年頃、東京市福生市の米空軍横田基地で
中国のハッキング対策に携わっていた。
そこに「日本側のパートナー(自衛隊の諜報(ちょうほう)機関員?)
が来ては米側のスパイ活動で得た情報をほしい、とねだる。
スノーデン氏らは日本の法律が望ましい形ではないので渡せない、
とじらす。
そして「もう少し小粒で別の情報で役に立ちそうなものを差し上げましょう」
「もしあなた方が法律を変えたなら、もっと機密性の高い情報も共有できます」
と誘う。
こうして生まれた法律が「特定秘密保護法」だと言う。

自国の法律が他国の軍事組織に仕切られて喜ぶ政府とは一体何者なのか。
この法律で政府が指定した「特定秘密」を公務員が漏らすと
最長で懲役10年の縛りがかかった。
つまり盗んだ情報を囲う柵ができた。
さらに昨年、通信傍受法が改正され、警察の盗聴捜査の枠が広がる。
今国会では、政府・与党が「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ
大幅な法改正を行おうとしている。

この間に、機密情報公開サイトのウィキリークスが
「ターゲット・トーキョー」と題して、NSAが経済産業省や
財務省、商社などの電話盗聴をしていたと暴く。
が、安倍首相は怒るふうでもなかった。
米国に監視されつつ国民を監視して情報を献上する。

かつて黒人詩人、リロイ・ジョーンズは
「現代の奴隷は、自ら進んで奴隷の衣服を着、首に屈辱の紐(ひも)
を巻き付ける」と書いた。
愛国の二文字がむなしい。


「スノーデン、監視社会の恐怖を語る」 小笠原 みどり著
(毎日新聞出版、1521円)

著者は1970年、横浜市生まれ。ジャーナリスト。
朝日新聞記者を経てフリーに。カナダ・クイーンズ大博士課程在籍。


信濃毎日新聞 2017年4月30日

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