116 出色の特集「NOと言えない医療制度改革」

日経メディカル 2016年1月29日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201601/545555.html

 読者の方々は、『月刊保険診療』(医学通信社)という雑誌をご存じだろうか。

 同誌の新年号は、「永久保存版」ではないかと思う。この雑誌の読者は、医療機関の
保険請求事務にかかわる事務職が中心だが、医師や看護師、コメディカル、あるいは行
政、メディア関係者もぜひ、目を通してほしい内容となっている。
 
 特集「『NO』と言えない医療制度改革(座談会)~TPPと国民皆保険の憂鬱な未来~
」では、植草一秀氏(オールジャパン平和と共生運営委員)、金子勝氏(慶應義塾大学
教授)、小池晃氏(参議院議員)、本田宏氏(医療制度研究会副理事長)が、安倍政権
のデマゴークぶりを、メディアの萎縮、官僚や財界への官邸支配などを背景に語りあう


 たとえばアベノミクスでは、2013年4月に黒田日銀総裁が「物価上昇率2%以上」と公
約し、大胆な金融緩和が行われた。ところが大企業の株価は上がっても、一般市民の消
費は上向かず、公約は破たん。メディアはこれを指摘せず、批判せず、国民は気づかな
い。

 社会保障分野の締めつけは厳しい。2016年度は社会保障費の自然増分を概算要求の67
00億円から5000億円まで減らし、診療報酬は全体で1.03%引き下げることになった。介
護報酬はすでに過去最大規模の引き下げが行われており、東京商工リサーチの調査では
介護事業者の倒産数は前年度比1.4倍だという。「社会保障と税の一体改革」で消費税
増税分を社会保障に回すと言いながら、結局は増えた分の5分の1しか回らなかったと金
子氏は指摘する。

 そこにTPP合意で医薬品と医療機器を起点に医療費高騰の道がひらかれる。特集冒頭
のマンガのように、20年後の日本の学校では教師が「財政のお荷物だった国民皆保険か
らの解放」→「自由で高度な医療を実現!」と大真面目で生徒に教えているのかもしれ
ない。

 特集に続く「21世紀『医療制度改革』総まとめ」も、どの内閣が何をしたかが一目瞭
然で貴重な資料。小泉内閣と第二次安倍内閣が国民に「痛み」を押しつけた一方、民主
党政権の野田内閣が「初めに増税ありき」に踏み出したことも記銘しておきたい。

 この『月刊保険診療』1月号が出色なのは、医療制度関連記事が続いた後、ノンフィ
クション作家の山岡淳一郎氏が「視点・『在宅医療ルポ 在宅医療の現場から』」と題
し、診療に同行して「血の通う」現場について詳述しているからだ。この現場リポート
によって、制度と現実に橋がかかっている。

 自由診療を含む高額の入院医療費に耐えかねた患者家族が患者を退院させ、口から食
べ物を摂らせ、胃瘻を外し得たエピソードなどは、庶民の「まっとうな」ちから勁さを
感じさせる。


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