(耕論)留学生を受け入れる ジギャン・タパさん ■借金苦、低賃金で働きづめ

朝日新聞 2017年3月7日 
 
20万人を超える外国人が日本で留学生として学ぶ。留学生のトラブルや日本語学校が
絡む事件が各地で後を絶たない。留学生の受け入れは、どうあるべきなのか。

■借金苦、低賃金で働きづめ 
ジギャン・タパさん(海外在住ネパール人協会アドバイザー)
Jigyan THAPA 79年、ネパール生まれ。私費留学生として来日。横浜国
立大学大学院修了後、かながわ国際交流財団職員。

日本で先日、あるネパール人の葬儀に参列しました。留学生が自殺したんです。母国で
借金をして日本に留学し、アルバイト先と日本語学校との往復の生活。周囲には「借金
返済のめどが立たない。もう限界だ」と漏らしていたそうです。でも、誰も助けてあげ
られなかった。

私の携帯電話には毎日、全国のネパール人留学生から相談の電話やメッセージが届きま
す。日本での生活に追い詰められ、困っている学生がたくさんいます。

私も17年前、私費留学生として来日しました。最初は窓ふきのアルバイトをしていま
した。日本語の上達とともに、時給の高いアルバイトに替わりました。その後、大学院
に進学し、日本で仕事を得ました。だから、相談に来る留学生には「日本にはチャンス
がある」と伝えています。

苦しいとき、支えは日本人の励ましでした。留学生にとって、日本人と知り合うことが
、社会との接点になります。近くに留学生がいたら、あなたがその接点になってあげて
ください。

私が来日したころはネパール人留学生は少なかったですが、最近は急増しています。政
治混乱で大学を出ても仕事がなくなったのが一つの理由です。若者は外国に行くしかな
い。日本もその一つです。

出稼ぎ目的で留学を利用している人間も確かにいます。でも、夢を持って来日する留学
生も少なくありません。日本語を話せるようになり、進学して、日本でいい仕事に就き
たい。日本で先端の知識を学び、母国で役に立つ仕事をしたいと思っています。

ただ、留学には学費などで年間100万円以上かかるので、多くが借金をします。「日
本は稼げるから、すぐに返せる」と留学前に説明を受けた人がほとんどです。

現実は違います。日本語を学び始めたばかりで、雇ってくれるアルバイトは限られる。
弁当工場や宅配便の配送センターなど、日本語を使わない、時給の安い単純労働です。
思うように稼げず、違法と知りながら長時間働く。疲れがとれず授業中に寝てしまう。
日本語が上達せず時給の良いアルバイトに移れない。この悪循環から抜けられない学生
が多いのが実態です。

これでは、日本に何年いても、日本語は話せるようになりません。進学できず「何のた
めに来たのか」と泣いて帰る留学生がたくさんいます。学ぼうとやって来た若者の貴重
な数年が失われています。日本社会は、こうした犠牲の上に成り立っていると、みなさ
んに知ってほしいのです。

留学生はいつか帰る人。そんな認識があるから低賃金労働者として利用できるのだと思
います。でも「使い捨てにされた」と思う外国人が増えるのは、日本の損失ではないで
すか。 
(聞き手・岡田玄)

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