誤った現状認識の上に、確かな安全保障を築くことはできない。


結論に代えてーー同盟の疲労

誤った現状認識の上に、確かな安全保障を築くことはできない。

最後に、そんな問題意識を提示しておきたいと思う。

本書では、日米同盟が、日本国民の知らない間に、
質的に大きく変化していた事実を明らかにした。
在日米軍は「日本を防衛するために日本に駐留しているわけではなく、
韓国、台湾、および東南アジアの戦略的防衛のために駐留している」こと。
さらに、米軍の日本駐留は「兵站」が目的であること。
そして、日本の防衛は「日本自身の責任」だというのだ。
もちろんどの国の防衛も、最終的にはその国自身が責任を負うものだ。
しかし日本では誤った現状認識のもとに議論が重ねられてきた。

40年以上前の米政府機密文書には、日本人の安全保障観を根底から揺るがす
重大な事実が明記されていた。
他の文書や当時の情勢から判断して、米国のそうした基本政策は、
1972年の沖縄返還前後にまとめられたと推定できる。

そして今も、その政策は継続されている。

日本の防衛は日本の「責任」という記述は、2015年4月に発表された
「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」にも書き込まれていた。
ただし、英語版だけだ。

英語版ガイドラインは、日本が武力攻撃を受けた場合、作戦の実施は
「自衛隊が主たる責任を持つ」としている。
しかし、日本語版ガイドラインでは、重要なキーワードである「責任」
を省略して翻訳せず、あいまいな作為的翻訳をしていた。
恐らく、米側から正式に在日米軍に関する基本政策が伝えられていない
ことから、日本政府は作為的な翻訳でしのぎ、現状認識の維持を図ろうと
したのではないだろうか。

「在日米軍が日本を守ってくれる」という、あたかも「共同幻想」のような
状況の上に、日本国民の対米依存心理も重なり、「思いやり予算」という名で
日本は巨額の米軍基地経費を負担してきた。

東アジアの安保環境は劇的に変化し、日米同盟の役割は重要性を増した、
と筆者も考える。
しかし、日米間で、米軍および自衛隊の真の役割を明らかにして、
有事を発生させないための本格的な戦略協議が行われてきたようには見えない。
これを機に、国民が必要とする情報を公開し、正しい現状認識に立って、
確かな安全保障の構築に務めるべきだ。
・・・

(「仮面の日米同盟」米外交機密文書が明かす真実、春名幹男、2015)

==

第6章 米中の狭間で翻弄される日本

日米中の三角関係にどのように対応していくか。
今も昔も、それが日本外交と安全保障の最も重要なカギだ。
太平洋戦争は、アメリカが求めた中国からの撤兵を日本が拒否して始まった。
東西冷戦は、米中外交の開始で風穴が開いた。
冷戦後、世界の工場と化し、日本を抜いて世界第2位の経済大国となり、
軍事力も強大化させた中国は台風の目になった。

しかしその間、日本はこの三角関係をリードする独自性を発揮した
ことなどない。

いや現実には、米中関係が大きく動くと、日米関係は揺らいだ。
ニクソン大統領とキッシンジャー補佐官の対中外交、
オバマ米政権の「米中G2論」を思われる緊密な協議で、日本の存在感は薄まった。
実際、太い米中のパイプの陰で、日本の存在はないがしろにされてきた。
対中外交を優先する米国は、実は、日本の知らぬ間に、
日米安保条約の役割まで変質させていた。

対中外交に臨んだニクソン政権の基本方針と会談内容、
その結果日米中関係はどうなったか。
公開された機密文書を中心に追っていきたい。
・・・

(「仮面の日米同盟」米外交機密文書が明かす真実、春名幹男、2015)

inserted by FC2 system