日本・韓国・台湾は「核」を持つのか?

マーク・フィッツパトリック著 秋山勝訳 

【評】山岡淳一郎(ノンフィクション作家) 信濃毎日新聞2016年11月27日 

グラつく均衡 将来をどう選ぶ

東アジアの「核」情勢は、危うい均衡を保っている。
5度の核実験を行った北朝鮮は核弾頭のミサイル搭載が可能になったという。
中国は300発ちかい核弾頭を保有し、軍事費を25年連続2けた伸ばしている。
これらを脅威とみなす日本、韓国、台湾は、米国の「核の傘」に入る同盟関係を
砦(とりで)にして潜在的核保有の状態をキープしてきた。

日韓台は、軍事転用可能な原子力技術を持っており、その気になれば2年
(日本はもっと短期間で)核武装できるが、いまはしないという姿勢をとる。
が、そもそも東京やソウル、台北が攻撃されたときに
米国はロサンゼルスを犠牲にして他国に報復するのだろうか。
日韓の核武装を口にしたドナルド・トランプが次期大統領となった今日、
核の傘はもはや幻想かもしれない。
危うい均衡の前提がグラついている。

本書は、米国務省で核不拡散担当の国務次官補代理を務めた著者が
豊かな知見をもとにリアリズムに徹して書いている。
時宜にかなった刺激的な本だ。

日韓台で最も核武装の危険性が高いのは韓国。
著者は1970年代の朴正熙大統領による核兵器開発(米国の圧力で断念)
から説き起こし、国民の6割超が核武装を支持する背景を詳細に読み解く。
もっとも、韓国が核武装に走れば、米国は必ず制裁する。
2国間原子力協定に従ってウラン燃料供給を打ち切り、各国に経済制裁を呼びかける。
貿易に依存する韓国は大打撃を受けると著者は説く。
核不拡散の世界秩序を守りたい米国は、
日本や台湾が核武装を選んでも制裁をためらわない。

ただし北朝鮮の政権が崩壊したら、米韓同盟の根拠は失われる。
北の脅威自体が消えるからだ。
北の核は闇市場に流れ、南北統一国家は核兵器を継承する恐れがある。
さて、そのとき日本は、、、。

日本は原発推進のために、
核兵器に転用できるウラン濃縮と使用済み核燃料の再処理を、
米国から認められてきた。
世界的にも特殊な例だ。
それが潜在的核保有に直結している。
この現実をかみしめ、将来をどう選択するか。
核と原発は一体的に考えなければならない時代に至った。

(草思社、1944円)

著者は国際戦略研究所アメリカ支部エグゼクティブ・ディレクター

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