資本に食われる医療

第5章 資本に食われる医療

・在宅医療はいくらかかるのか?
・高額療養費制度という下支え
・新薬が高いにもほどがある!
・アメリカの製薬会社のやり口
・ジェネリック薬でもボロ儲け
・超高額の医薬品は「がん」治療をも侵食
・現場で使わせないよう制度で締め付ける
・新薬を使う合法的な抜け道
・オバマケアの現実
・TPPによるジェネリックのゆくえ
・日本のシステムを熟知するアメリカ
・アメリカの儲けがヤバい!
・市場開放の圧力
・余波は保険へも
・机上だけのICT化
・医療費のバランスをとるために

以上中見出しより 
「長生きしても報われない社会」ー在宅医療・介護の真実
山岡淳一郎 ちくま新書 2016年9月刊行



北海道新聞書評 2016年10月16日
「長生きしても報われない社会」山岡淳一郎著
評 沖藤典子(ノンフィクション作家)

厳しい現実と未来の姿提示
 長生きは人類の夢であり、幸せの象徴だった。その長生きがなぜ喜べずに、報われな
いものになったのか、誰もが長生きを喜べる社会のありようを模索した。
 現代社会の背景には、広がる経済格差、医療や介護への不安や不信、家族の変化など
がある。直近の未来にあるのは、団塊の世代が一斉に75歳以上になる「2025年問
題」。政府は危機感のもと、地域包括ケアシステム、地域創生や高齢者の移住などの政
策を出している。財源難を理由に介護保険のサービスを後退させ、利用者の負担増も行
った。果たしてこれらは、国民に納得のいくものなのか。
 本書は5章だて。第1章の冒頭、述べられる無理心中事件や介護殺人などの人権侵害
には胸が詰まる。在宅医療には献身する医師がいる一方、家族の負担も大きい。第2章
では、多死社会の到来を目前にして終末期の看取(みと)りと場所の問題、第3章は「
超高齢社会は認知症の人との共存が試される社会」として、認知症ケアの実践を、第4
章では、話題の地域包括ケアシステムにメスをいれた。第5章では、医療費に切り込む
。日本人の命は「金の切れ目」で終わるのか。高騰する薬剤価格、社会保障費の医療費
割合、認知症の人への高度医療の拒否など、合意点はどこか、衝撃的な課題が展開する

 この閉塞(へいそく)状況を切り開く光はあるのか。先駆的な活動をする医師、看護
師、医療グループ、診療所、介護関係者、ボランティアなど、多くの活動を取材してそ
の実践を分析し、詳細なデータをもとに、未来の姿を提示してくれた。そこに希望を見
出(みいだ)すが、我々(われわれ)もまた自分の命の終わりについて向き合わなくて
はならない。関係者の努力、支える政策、個人の意志、そこに長生きして良かったとい
う姿が見えてくる。
 本書は厳しい現実を描きながら、どこか詩情のようなものを感じる。著者の、人間の
生に対する熱、そこから発する光に、救いを感じるからだと思う。
(ちくま新書 886円)
<略歴>
やまおか・じゅんいちろう 1959年生まれ。ノンフィクション作家。著書に「原発
と権力」「インフラの呪縛」など

inserted by FC2 system