BOOKS 信濃毎日新聞 2016年9月11日


望月衣塑子「武器輸出と日本企業」  
布施祐仁「経済的徴兵制」

安倍晋三政権は2014年4月、「武器輸出三原則」を全面的に見直し、
武器の輸出を容認する「防衛装備移転三原則」を閣議決定した。
防衛省の外局として15年10月に発足した防衛装備庁を旗ふり役に、
官民あげての武器輸出が本格的に始まろうとしている。
その現場を望月衣塑子「武器輸出と日本企業」(角川新書・864円)
がリポートしている。

武器市場の獲得に向け、日本が目指すのは米国式の「軍産複合体」だという。
軍事と企業や大学、研究機関が密接に結び付きながら、武器輸出を進める。
新聞記者の筆者は防衛省、三菱重工業や傘下の中小企業を含む防衛産業、
大学の研究者など関係者に取材している。

新たな「国策」に戸惑う企業人や研究者の声を拾っているが、
印象深いのは「先輩」の欧米防衛企業幹部の証言だ。
一番もうかる「ミサイルと弾丸」を日本企業が売るといえば、
戦争状態にある中東諸国は喜んで買うだろう。
だが、日本の世論は許さないだろう。
そう指摘したうえで、欧米企業幹部は忠告する。
「でも武器輸出でいいとこどりはいずれできなくなりますよ」

いったん経済の原理に放り込まれると、当事者の思惑を超えて、
事態は展開していく。
国策として武器輸出を振興すれば、「国柄」は確実に変わる。
国民はどこまで認識できているだろうか。
筆者の自問はそのまま問題の提起になっている。

布施祐仁「経済的徴兵制」(集英社新書・821円)
も「戦争と経済」をめぐるリポートだ。
完全志願制の米国では、若者が奨学金や医療保険などの
「特典」に引かれて兵隊を志願するケースが多い。
貧しい若者が戦地に赴くわけだ。
本書は自衛隊入隊者の経済状態などを考察し、日本も
「経済的徴兵制」と無縁でいられないのではないかと警告を発している。


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