121 話題の高額医薬品、費用対効果は?


日経メディカル 2016年6月22日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201606/547305.html

以前、癌治療の抗ヒトPD-1モノクローナル抗体薬のニボルマブ(商品名・オプジーボ)
について「画期的な医薬品」と紹介したが、効果に加え副作用についても注視していく
必要がある。改めて確認しておきたい。

かつて鳴り物入りで薬価収載されたゲフィチニブ(商品名・イレッサ)が、発売直後に
深刻な副作用発現を招いた。厚生労働省、医薬品医療機器総合機構に報告されている「
ゲフィチニブ使用との関連が疑われている急性肺障害・間質性肺炎等の副作用発現状況
」によると、間質性肺炎/急性肺障害1473例が報告され、うち588人が死亡したという。
イレッサに対する臨床医の評価は様々だが、医療界に与えた影響は大きく、今も「イレ
ッサのトラウマ」は残っている。安全で効果的な使い方が根付くまでには時間がかかる。

日本肺癌学会は昨年12月、「抗PD-1抗体薬ニボルマブ(オプジーボ)についてのお願い
」という文書をウェブサイトに掲載した。

http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/1078.pdf

ここには、ニボルマブをメノラーマに対して使用した場合、大腸炎、肺臓炎、1型糖尿
病や末梢神経炎(ギランバレー症候群)、重症筋無力症などの免疫学的副作用が生じた
と記されている。もともと自己免疫疾患を有する患者では、これらの増悪リスクが高い
という。慎重に投与しなくてはならないだろう。

一方で、このニボルマブをはじめとする超高額医薬品が保険財政を圧迫するという懸念
が高まっている。

ニボルマブの薬価は100mgで72万9849円。非小細胞肺癌の場合、成人には1回3mg/kg(体
重)を2週間間隔で点滴静注することとされている。非小細胞肺癌の患者に1年間、添付
書やガイドラインどおりに使うと約3500万円の薬剤費がかかるといわれる。よくもまぁ
、この薬価で保険適用したものだ。

日本では、肺癌で年間に約7万人が亡くなっている。メーカーは年間1万5000人以上が使
用すると見込んでいるようだが、実際の使用者数はもっと多くなるという見方もある。
いずれにせよ、保険財政に与える影響は大きく、保険財政の厳しさを理由に厚労省が薬
剤費を抑え、ジェネリック薬を奨励していることと完全に矛盾する。

いかにして新薬を「適切な価格」で薬価収載すればよいのか、真剣に考えねばならない
段階に至った。

英国の国立医療技術評価機構(NICE)では、薬を含む医療技術についての費用対効果を、
QALY(quality adjusted life year、質調整生存率)という概念を使って独自に評価
している。費用対効果が高くないと判断された場合は、NHS(国民保健サービス)での
使用を実質的に拒否する内容のガイダンスが発行されるという。「費用対効果」という
表現は、医療の現場感覚からすると少なからず違和感を覚える部分もあるが、一定の評
価軸を立てていることは参考になる。

適切な薬価とは、どのくらいだろう。国民1人当たりGDPを基準に妥当な治療コストを検
証する考え方もあるが、各国の医療事情などの違いもあり、一概には言いきれまい。ビ
ッグ・ファーマが国境を越えて活動している以上、世界的な議論が必要なのかもしれな
い、と考え込んだ。

====

inserted by FC2 system