120 フィンランドに学ぶ医療・介護人材難の対応策


日経メディカル 2016年5月30日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201605/547007.html

「ラヒホイタヤ」という、欧州はフィンランドの資格制度をご存じだろうか。
これは、フィンランド語で、lahi(身近な)と hoitaja(世話をする人)
を組みあわせたもので、社会・保健医療共通基礎資格。
2025年にはEU圏内で最も高齢化率が高くなるフィンランドが、
医療・介護・福祉分野の人材確保を目指して導入した制度だ。

具体的には、保健医療分野の准看護師、精神障害看護助手、歯科助手、
保母・保育士、(足のケアを担う)ペディケア士、リハビリ助手、
救急救命士・救急運転手の7つの資格と、社会ケア分野の知的障害福祉士、
ホームヘルパー、日中保育士の3つの資格を統合したもの。
ラヒホイタヤの資格を取れば、医療や介護、福祉の労働市場の
なかを移動して長期間、仕事を続けることが可能となる。

たとえば、昼間の保育園で子どもたちの世話をした後、介護施設で
仕事をしたり、ホームヘルパーとして働いたりすることができるようになる。

資格統合のメリットとしては、介護人材の離職者が減る、
無資格の職種がなくなってホームヘルパーの質が向上する、
異業種間の移動が楽になる、複数の職務を担えるようなスキルが
身に付くことで賃金の上昇が期待できる、といった点が指摘されている。

フィンランドでは1993年に幾つかの学校で教育が始まり、
2001年に資格基準・教育プログラムが明確化された。
日本でも厚生労働省が、昨春、「介護・福祉サービス・人材の融合検討チーム」
を設け、資格統合も視野に入れて検討を始めた。
2025年に必要な介護職員は約248万人。
このままでは約33万の介護職が足りず、
保育士も2017年度末には約7万人が不足するといわれる。
地方の過疎化には歯止めがかからず、点在する介護施設や児童福祉施設など
は人手不足で存続できなくなる恐れも出てきた。

そこで介護施設、保育施設、障がい者施設を一体的に運用したり、
介護福祉士や保育士などの資格の連携・統合を図ったりして、子育てや
介護を効率的に提供できないかということで、厚労省は検討にとりかかった。

ところが、介護、福祉の現場からは反発が起きた。
「保育士と介護福祉士とでは全然、仕事内容が違う。
それぞれ保育ママや、ヘルパー2級を活用したほうが現実的だ」
「統合すれば、資格取得のハードルが高くなり、人手不足の解消どころか、
資格取得者が減ってしまう」
など、さまざまな反対意見が出された。

結局、日本版ラヒホイタヤ導入は見送られた。
改めて、医療、介護、福祉の「全体最適」と、それぞれの現場の
「部分最適」のすり合わせの難しさを感じた。

しかし、現状このままでよいはずがないのだ。
介護人材を海外から受け入れる動きが加速しているとはいえ、
まずは日本人自身が、自らの手でケアにとりくむ、そんなしくみと文化を
育まなければ、この「人財」難は乗りきれないように感じる。

読者の皆さんは、どうお考えだろうか。

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