119 認知症介護を巡る悲劇から何を学ぶか


日経メディカル 2016年4月27日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201604/546679.html

認知症の介護を巡って、痛ましい事件が起きている。

今年2月、埼玉県の小さな町で、83歳の夫が認知症の77歳の妻の首を刃物で刺して、殺
害した。夫妻は20年前に東京から、その町に移り住んだ。数年前から妻は認知症を発症、
夫も病気がちで入退院をくり返していた。福祉関係者が介護サービスの提供を何度か
もちかけたが、夫は断ったという。
 
入院を控えていた夫は、彫刻に使う小刀で妻を刺し、警察を呼ぶ。逮捕時に「介護に疲
れて無理心中を図った」と話した後、夫は留置場から出ようとせず、食事も拒絶。水以
外、口にしなかった。警察は衰弱した夫を病院に入院させたが、逮捕から15日後、妻の
あとを追うように亡くなった。覚悟の自死だったのだろうか。
 
2006年には京都市伏見区で、認知症の母親(当時86歳)を54歳の長男が殺害する事件が
起きた。長男は、自らの首を刃物で刺して自死を図ったが、助かった。長男は母親の介
護のために会社を辞めて収入が途絶え、アパートの家賃も払えなくなっていた。

長男が「もう生きられへん。ここで終わりや」と言うと、「あかんか。一緒やで」と母。
京都地裁で犯行直前の状況や、やりとりが明らかにされる。裁判官は、長男に懲役2
年6月、執行猶予3年(求刑・懲役3年)を言い渡し、「裁かれているのは日本の介護制
度や行政だ」と温情を示した。長男は「母の分まで一生懸命生きたい」と語った。

が、それから8年後、生活に困窮した長男は自分と母親の「へその緒」を鞄に入れたま
ま、琵琶湖大橋から飛び降り、自死したという。

二つの悲劇を思うにつけ、もっと「外」から手を差し伸べる方法はなかったのか、と悔
やまれてならない。超高齢社会における認知症の介護問題は、もはや家庭単位では解決
できなくなっている。介護をする側が病気だったり、精神的負担から「うつ」状態に陥
っていたりすると、苦しみが内へ内へと沈殿する。外からのアプローチが欠かせない。

最近、認知症ケアの手法として、フランス生まれの「ユマニチュード」が注目されてい
る。「優しさを伝える技術」とも言われ、攻撃的で介護が難しかった人にも有効だとい
う。認知症の人と「目と目の高さ」を合わせて、視線を外さず、やさしく話しかけ、体
に触れる。そうすることで状況が著しく改善されたケースもあるらしい。

日本人のメンタリティにあうのかどうか未知数の部分もあろうが、認知症介護の基本は、
つくづくコミュニケーションなのだと思う。

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