生きてることに感謝 障がいを背負って

日本農業新聞15年12月24日

生きてることに感謝 障がいを背負って

コラム JA長野厚生連佐久総合病院地域ケア科 医師 色平哲郎

誰でも、苦難に直面したり、愛する人を亡くしたりすると心が折れそうになる。
精神というものは強そうで弱く、弱そうで強い。

北海道の浦河町に「べてるの家」という精神障がいを抱えた人たちの
活動拠点がある。
100人以上の当事者が地域で一緒に暮らし、
働きながらケアもする画期的な施設である。
名前は、ドイツの障がい者やホームレスの人たちが活動する共同体「ベーテル」
に由来するともいわれている。

「べてるの家」の始まりは1978年。
精神疾患から回復したメンバーが、浦河教会の教会堂を拠点に活動を開始した。
当初は、浦河日赤病院を83年に退院した早坂潔さんら数人の回復者が、
教会の片隅で名物「日高昆布」の袋詰め作業を請け負った。

「地域のために日高昆布を全国に売ろう」と起業した彼らは、
「生きづらさ」を抱えながら一緒に暮らし、地域のために働く。
こうして、新しい形態の共同体が誕生した。
 
ベテルの家には独特の「語録」が根付いている。
そのいくつかを紹介すると、

▽手を動かすより口を動かせ

▽三度の飯よりミーティング

▽リハビリテーションからコミュニケーション

これらから、いかに仲間同士の会話がケアにとって大切か伝わってくる。
こんな言葉もある。

▽安心してサボれる職場づくり

▽弱さの情報公開

▽利益のないところを大切に

▽幻聴から「幻聴さん」へ

▽そのまんまがいいみたい

こうした言葉を聞くと、誰もがなんだかほっとするのではなかろうか。
心に重い荷物を背負って生きるのはつらいことだろう。
しかし、ありのままを受け入れて暮らしている。

以前、べてるの家を家族で訪ねたら、後日、早坂さんからはがきをいただいた。

「・・・人生いろいろあるけど、今、生きている事が、かんしゃです」

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