高齢者の方々の「足」 日本農業新聞15年7月9日 コラム

JA長野厚生連佐久総合病院地域ケア科 医師 色平哲郎

地域で医療に携わっていると、高齢者の方々の「足」
のことが気にかかって仕方ありません。
お年寄りが車の運転をやめると、まったく別の世界に入ります。
 
劇っぽく書くと、こんなふうに……。

ジジ 息子に危ねぇって、免許取り上げられただ。
ババ じゃあ、買い物なんか、どうしてるだい。
ジジ おらちのおばやん、買い物が大好きだったども、しょうがねーから、生協頼んだん
だが、注文書の棒が引けねーだよ。次になあ、農協の食材にしたども、農協が決めた
ものがくるだよ。おらが肉が食いたくても、魚が届くだ。
ババ まあ、そうかい。女衆は、品物見て買いてーしなあー。ストレス解消にもなるらぁ。
ジジ これは、きっと、おらっちだけの問題じゃあねーよ。佐久病院に診察に行く
んだって、困るいなあ。葬式だって、人に頼まなきゃ行かれねーわ。
義理を欠くようになりゃ、つれーなあー。
福祉バスは日に一本きりだし、朝でかけりゃ、夕方までけーってこれねーや。
新幹線で東京まで行くに、一時間半だなんて言ってるけんど、バスで買い物に行くのも一日がかりだ。
ババ あー、だからあそこんちは東京の娘がチクワだ魚だミカンだって、宅急便で送ってくるだ
わ。子どもがいる衆はいいけんど、おらっちみたいにいなきゃ、どうするずら。切ねぇなぁ。
ジジ いまちっと何とか、っちゃー、佐久病院の診察だわ。まーで、この間なんか、二
時間も待って、やっと先生の顔見たと思ったら、「いいですね」で終わりだったわー。
おらー、いっぺー、言いてーことがあっただども……。
ババ ほーっ、そーかい。でも先生だって、ふんふん聞いてりゃー、日が暮れちまうわ。

私が隔週で、診療に赴く群馬県吾妻郡の「大戸おおど診療所」は、
設立した一九九四年当時から患者さんの「送迎」を車で行っています。
こうした取組みがもっと求められるでしょう。

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