「農民とともに」地域医療に人の心を 日本農業新聞15年4月16日 コラム

JA長野厚生連佐久総合病院地域ケア科 医師 色平哲郎

初めまして。
JA長野厚生連佐久総合病院の内科医、色平哲郎です。
色平という苗字はあまり聞き慣れないでしょう。
父の出身地は、千曲川から下った新潟県の旧白根市で、
いまも親類縁者が多く暮らしています。
私自身は首都圏で育ったのですが、「ふるさとはどこですか」と聞かれると
幼い頃からよく訪れていたので「白根市です」と答えたくなります。

1996年から長野県南牧村、南相木(みなみあいき)村で診療所長を務め、
その後は群馬県東吾妻町大戸(おおど)の診療所にも通っています。
村での診療は、かれこれ20年近くになります。
いずれの村も米と水、そして酒のうまい土地です。

酒といえば、佐久総合病院は語呂合わせで「サケ騒動病院」といわれるくらい、
酒好きの医療者が集まっています。
もちろん、診療中や勤務中に飲むわけではありませんよ。
仕事が終わった後、地域の皆さんの医療ニーズにどう応えればいいか、
「農民とともに」という病院のモットーをいかに若い医師たちに伝えていけばいいか。
そんな話題で酒を飲みつつワイワイ話し合うのが好きなのです。

いつものように往診でクルマを運転していて、
ラジオからこんな会話が聞こえてしました。
ある酒好きの男性が妻に先立たれ、うつ症状で入院したそうです。
気分は一向によくならず、点滴で栄養剤を毎日、打たれます。
その琥珀(こはく)色の液体を眺めていて、つい女性の看護師さんに
「ひと口でいいから、ウイスキーを飲ませてくれませんか」と頼みました。

すると彼女は一瞬、ギョッとしたようですが、
しばらくすると何食わぬ顔で点滴液を持って来て、
「ウイスキーを入れて来たわよ」と元気に言って準備をします。
男性はつられて「ありがとう。
で、どこのウイスキー?」と聞きました。
すかさず看護師さんは答えます。

「毎日のものだから、ニッカ(日課)だわね」

「マッサン」も喜ぶ看護師さんの切り返しに思わず、
笑いながらうなずきました。

プロフィル いろひら・てつろう
1960年横浜市生まれ。東京大学中退、京都大学医学部卒。
内科医。
佐久総合病院、京都大学付属病院などを経て南牧村野辺山
へき地診療所長、南相木村の診療所長として地域医療に従事。
2008年から現職。

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