キューバの「医療外交」は世界中から注目されている。

アメリカからの経済制裁で苦しめられているキューバは、
後ろ盾だった旧ソ連の崩壊後も、
乏しい国家予算を国民の健康を守るための地域医療に投資している。

革命後、キューバは国内全地域にかかりつけ医を配置し、
医師と看護師が各地域住民の健康・予防・治療の三点セット
を担当するシステムを整備した。
必要があればそこから専門医のいる病院などに紹介される。
「国民は治療を受ける権利がある」と書かれた憲法50条にそって、
治療はすべて無料。
だが担当医が地域住民の生活を丸ごと把握しているため、
早期発見・早期治療で医療費は先進国よりずっと低く抑えられている。
経済制裁によって輸入が制限されている医薬品の生産は自国内で行い、
完全無料の医科大学を設立し、国内外の医学生に開放した。

こうした政策の結果、キューバは低い国民所得で先進国並みの平均寿命と
高い医療水準、なおかつ医療費は先進国よりも低いという、三大快挙を成し遂げた。

旧ソ連崩壊前は、経済的援助と引きかえに「兵士」を紛争地に派兵していたキューバ。
だが「医療外交」に切りかえて以降、世界中の国々や被災地に送られるのは、
兵士ではなく自国で養成した医師たちだ。

現在5万人のキューバ人医師たちが世界66か国に派遣され、
政府はその見返りに、石油を安く輸入したり、
さらに年間80億ドル(8000億円)の外貨を稼いでいる。
やがてこの「医療外交」は、南米の他の国々と連携し、
アメリカ型資本主義にノーを言うほどの国力となった。

医師たちが自国の医科大学で教わる、「地域に入り地域に帰る」
という志は、かつて長野の若月俊一医師が提唱した地域医療の根幹と同じものだ。
だがキューバの例はそうした「理想」を政治が後押しすることで、
医療がその先にある国家の自立につながる力になること、
そして「財源不足問題」は何を優先し予算配分するべきか、
為政者の方針次第でいかようにもできることを世界に向けて体現した、
新しいモデルケースなのだ。

2014年12月。

アメリカ政府は、半世紀以上断絶していたキューバとの国交正常化を宣言。

以上、「沈みゆく大国アメリカ」〈逃げ切れ!日本の医療〉堤未果
その208ー209ページより:

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