途上国の学校保健 信大助教・友川さん WHOで研究へ

暮らしに根付く支援を 信濃毎日新聞 2014年10月29日

西アフリカ・ニジェールや東南アジア・ラオスなど途上国の「学校保健」
の在り方を研究し、現地の活動を援助してきた信州大教育学部助教の
友川幸(さち)さん(37)=長野市=が来春から1年間、
スイスの世界保健機関(WHO)で研究を行う。
学校保健は、学校を拠点に子どもたちの健康の底上げを図る活動で、
教育と医療がクロスする分野だ。
これまでの友川さんの歩みを振り返りながら、
国際社会の中での学校保健の現状と可能性を聞いた。
(編集委員、増田正昭)

ともかわ・さち 1977年広島県生まれ。広島大学教育学部卒業後、
同大大学院で国際協力と保健学を学ぶ。
総合地球環境学研究所プロジェクト研究員などを経て、信州大教育学部助教。


「健康を守る教育の一助に」

友川さんは広島大大学院で保健学博士を取得し、2010年から信大で教えている。
大学院在学中にラオスの農村に滞在し、寄生虫の感染問題に取り組んだ。
02年には、青年海外協力隊員としてニジェールに赴き、
現地の教師たちとともに健康教育を実践。
信大赴任後も、ラオス、タイ、ネパール、ケニアなどで活動を続ける。

友川さんによると、途上国支援の分野で学校保健が注目される
ようになったのは、2000年前後。
「先進国は学校建設などハード面での支援を続けてきたが、
それだけでは暮らしの改善につながらないことが明らかになった。
保健教育に代表されるソフトの支援を充実させることが
非常に効果があることが分かってきた」



国連は1989年に「子どもの権利条約」を採択し、2000年の
「世界教育フォーラム」では「万人のための教育」の達成目標を掲げた。
こうした理念や目標を実現するためには、子どもの健康状態の改善が
必須であることから学校保健の活動が国際的に注目されるようになった、
と友川さんは指摘する。

だが、途上国には日本のような教科書や健康診断、
養護教諭の配備といった仕組みはない。
例えば、ニジェールの学校では、先進国の支援でトイレが
造られていたが、鍵がかかっていた。
子どもたちは使い方も分からないし、手洗いの習慣もない。
どうやって習慣を付けるか。
友川さんらは、現地の教師たちと一緒に、そこから始めた。

「先進国のやり方を持ち込んでも、役に立たない。
まず援助を受ける側の人々の暮らしを知ること。
援助する側が現場のことを本当に考えているんだなーと、
相手が納得しないと何も動かない。
自分たちが無力であること、理解する力がないとだめだ
ということを思い知らされた」

信大では、ラオスの学校保健支援の現場に教育学部の学生を
連れて行く研修を試みている。
大学が予算を付け、今年9月には5人が参加、
現地の学校で健康診断などを手伝った。
「信大の学生には、日本という国がどういう国か、
を外から考えるきっかけを持ってほしい。
社会の中にいる子どもを見る目を養ってほしい。
自分自身を見つめ直してほしい。
そんな思いから続けている」と、友川さんは期待する。

信大大学院修士課程1年の長田光司さん(24)は、
学部2年のとき初めて参加し、今年で2度目だ。
「日本の当たり前が当たり前ではないことに衝撃を受けた。
もっと深くラオスを知りたいと思うようになった」と話す。
今夏は自ら現地に40日以上滞在し、研修に合流した。
「青年海外協力隊も将来の選択肢に考えている」



研究・実践の両面で歴史の浅い途上国の学校保健。
友川さんは、志を同じにする研究者らと手探りで歩いてきた
フロンティアの一人だ。
今年になってWHOの関係者から共同研究の誘いがあったことから、
信大の研修制度を使って来春のWHO行きを決めたという。
さまざまな研究者と意見を交わし、
現場で役に立つ理論と方法を探るのが目的だ。
友川さんは「国によって実情が異なるが、共通する課題も見えてきた。
子どもたちの健康を守る教育が広がっていく一助になれば、
と思って研究や活動を続けたい」と話している。

写真キャプション=
ラオス・ラハナム村の小学校で身体測定をする信大生ら=9月11日

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