「農村の中でも最も軽視されている、へき地を守ることの重要性をもっと論じなければならない。」

近年はわが国でも、プライマリ・ケア(第一次医療)や
コミュニティ・メディシン(地域医療)などの重要性が説かれ、
医療の第一線性や総合性が大切であると、一応論じられてはいる。
しかしそれは表面の議論であって、実際には、
学生は大病院志向で、自分の技術を磨くことにのみ心を奪われている。
結果としては、都会を愛し農村へき地を嫌うことになるという。

私どもはなぜ農村を守らねばならないのか。
ーーー私どもは、ただ農村だけに力を入れているのではない。
現在あまりに、都市に、とくに大都市にすべてが
「集中」し過ぎていることの危険を論じているのである。
こんなアンバランスはいけない。
農業を守らず、農村の自然環境を破壊していけば、
これから二十一世紀はどうなってしまうか。
農村の中でも最も軽視されている、
へき地を守ることの重要性をもっと論じなければならない。
その主旨から農村地域とくにへき地の「医療の正当な分布」
を主張するのである。
古くて、しかも新しい「無医村問題」である。

そこで私自身の具体的提案を申し上げてみたい。

医学部卒業生は、「卒後研修」二年間を終わったら、必ず、第一線の
「へき地的」なところで、診療所勤務を少なくとも二年間やる。
これを義務制とする。
この4年間を終わって後、大学などへ行って、
専門技術者になるかどうかは、全く個人の自由とする。
とにかく、第一線の「一般医」たる基礎的修練を、
あらゆる医者は身につけねばならぬ。
そうでなければ、「人間」を救う医者にはなれない。
地域社会生活を営んでいる「人間」を理解しなくて、
どうして本当のヒューマニズムが、医者に出てこよう。

もちろん、これには少なくとも次の三つの必須条件が要る。
一には、その研修期間の医者の待遇が十分であること。
二には、大学または病院での研修が、その間にもある期間続けられること。
三には、地域住民の、物質的、精神的支援が大きいこと。
ことに第三の問題が重要で、
ここにへき地医療成否の、鍵があるとまで言いたい。

(「農村医療」誌第93号、佐久病院、若月俊一、1992)

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