日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか 矢部宏治著

書評 2014年12月7日 信濃毎日新聞

日本政府の傀儡性を明るみに 【評】白井聡 文化学園大助教

本書の著者、矢部宏治氏は、大ヒット作、孫崎享「戦後史の正体」を含む
創元社の「戦後再発見双書」の仕掛け人として知られる。
「戦後史の正体」の読者から矢部氏に来たメールには、こう書いてあったという。
「三・一一以降、日本人は『大きな謎』を解くための旅をしている」。
まことにその通りだと思う。

福島の原発事故を遠くから見たドイツやイタリアが原発から足を洗う判断を
下した一方で、事故の当事者であるわれわれの国では、当然原発への嫌悪・反対
が高まっているにもかかわらず、運転責任者(会社)が平気の平左で存続し、
責任者の訴追もなく、原子力政策を推進した党は政権に復帰し、
なし崩しの推進回帰が露骨に企てられている。
今後起こるのは、あらゆる種類の被害の否定と隠蔽であることは容易に推論できる。
そして、反感がいよいよ燃え上がるなか辺野古で建設が強行されつつある
米軍基地問題も、構造は同様である。

なぜ、こんなことになっているのか。
端的に言えば、戦後の日本政府とは、米国政府の傀儡(かいらい)であり、
日本国民の利益よりも米国政府の意向を優先せざるを得ないからである。
本書の重みは、いま述べた「日本政府の傀儡性」という命題を、
公開資料・史料に基づいて徹底的かつ平易な形で明るみに出した点にある。

重要なのは、かかる状態が法によって根拠づけられているという事実だ。
憲法には民主主義の原則や基本的人権の尊重やらが立派に書き込まれている
にもかかわらず、それが現実化されないのは、権力の奥の院
(その中心に日米合同委員会が位置する)における無数の密約によって、
常にすでに日本の法体系は骨抜きにされているからである。

つまり、この国には、表向きの憲法を頂点とする法体系と、
国民の目から隔離された米日密約による裏の決まり事の体系という二重体系が存在し、
有力なのは当然後者である。
そして、官僚・上級の裁判官・御用学者は、この二重体系の存在を否認することに、
あるいは二重の体系があたかも矛盾しないかのように取り繕うことに、
今日も血道をあげている。

本書は、いわゆる改憲・護憲論争にも重大な論点を提起している。
護憲だろうが改憲だろうが、右に見た二重体系を解消できないのなら
何の意味もないという重い事実を、本書は突きつける。
本書は、三・一一以降刊行された書物のうちで最も重要である。
(集英社インターナショナル、1296円)

著者は1960年、兵庫県生まれ。書籍情報社代表。

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