102 「国際医療交流」をはき違えていないか?

日経メディカル 2014年11月28日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/irohira/201411/539598.html

 医療が産業の国際競争力強化のメニューに組み込まれて久しい。たとえば、内閣府の
地域活性化総合特区として、「りんくうタウン・泉佐野市域」の国際医療交流の拠点づ
くりが入っている(官邸ホームページ参照)。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/sogotoc/toc_ichiran/toc_page/t15_rinkuu
.html

 世界と直結した関西国際空港の目の前という地域特性を生かして、国際的な医療拠点
を築く構想だという。しかしその政策課題の柱の一つとして「海外の動物(ペット)の
診療などを積極的に展開するための環境整備が必要」と掲げ、「国際交流を通じた高度
獣医療機能の強化」を打ち出しているのには開いた口がふさがらない。貴重な日本の医
療資源を誰のため、何のために投じるつもりなのか。

 大阪府は貧富の格差が大きく、公的医療保険の保険料を払いたくても払えず、「無保
険状態」に陥った人が少なくない。そうした状況を差し置いて、公費を海外の富裕層を
呼び込むためのペットの診療に振り向けるとしたら、悲劇を通り越して喜劇になるだろ
う。大阪府の人は、もっと怒らなくてはなるまい。

 地域医療の現場に携わっていると、成長戦略の目玉よりも、医療者と医療者が地道に
循環する「国際医療交流」が必要だと感じる。先駆的な例はある。愛知県日進市のアジ
ア保健研修所(AHI) もそのひとつ。
http://ahi-japan.sakura.ne.jp/xcl/

 AHIは、アジア各地の村々で活動する現地の保健ワーカーを育成しているNGOだ。創設
者の外科医、川原啓美先生は、1976年にボランティアでネパールの病院に勤務していた
ときに保健ワーカーの養成の必要性を痛感した。

 ある日、20代の若い女性が家族と病院に来た。右膝が皮膚がんに冒されており、脚を
切断しなければならない、と告げると彼女は、こう答えたという。

 「私が死ぬのは悲しいことです。しかし私が死ねば、私の夫は次の妻をもらうことが
できます。そしてその健康な新しい妻は私の子どもたちの世話をし、夫を助けて働くこ
とができます。でも、私が脚を切って何もすることができなくなったら、貧しい我が家
は全滅するかもしれません」

 アジアの村々の人が健康を保つには、生活から改善しなくてはならない。そのための
保健ワーカーの養成が必須だったのだ。健康を保つには最低限の「食料」が確保されて
いなくてはならない。1973年に栃木県那須塩原市に設立された学校法人アジア学院(AR
I)も、広い意味での保健に携わる国際交流拠点。
http://www.ari-edu.org/about-us/
 
 ここでは、毎年春から9カ月間、アジアやアフリカ、太平洋諸国の農村地域の「草の
根」の農村指導者を学生として招き、那須塩原のキャンパスで有機農業による自給自足
を基本とした研修を行っている。これまでに1200人の卒業生が、それぞれの国に帰って
農業指導者としてリーダーシップを発揮している。

 世界は「金儲け」だけでつながっているわけではない。

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