清華大研究院院長・閻学通氏に聞く


新型大国関係、「衝突の管理」がカギ

米中二極化進む どちらにつくか


偽りの友人関係  国際的な尊厳を  同盟国 自ら選ぶ

強硬路線 中国に危うさ

朝日新聞 2014年4月11日


中国の膨張と台頭で、変容する米中関係。
習近平(シー チンピン)指導部は、いかなる外交を展開していくのか。
中国の対米政策に影響力を持つ清華大学当代国際関係研究院の
閻学通(イエン シュエトン)院長に聞いた。

1952年生まれ。
北京の国際関係学院や米カリフォルニア大学バークリー校などで学び、
清華大学で対米専門家に。
2010年に当代国際関係研究院の院長に就任した。
新日中友好21世紀委員なども歴任し、
中国国際関係学会副会長をはじめ兼任職も多数。


===中国の膨張が米中関係を変化させています。

「中国の影響力はまだ、主に経済である。
つまり、購買力だ。
今や世界は生産過多であり、主導権を握ることができるのは、
買う側である。
石油も自動車も飛行機もたくさん生産されるが、売れない。
中国は急速に買う力を持ったことで、世界中から求められる存在になっている」

「なぜハリウッドが中国を求めるのか。
それは中国が彼らの映画を買うからだ。
経済から始まり、まだプロセスが必要だが、
最後は中国の価値観が世界に影響を与えるようになる」

===人民元も、影響を強めています。

「日本の円が、外貨準備に使われる国際的な通貨とならなかった大きな原因は、
日本の貿易黒字にある。
買うよりも売る方が多ければ、円は外に出て行かない。
米国のドルが強いのはその貿易赤字のためだ。
人民元も同じ理由で世界に広がる。
将来の米中の競争の一つは、どちらがより多く輸入をするかだ」

===米中は文化や経済の分野で衝突が不可避だと述べていますね。

「これは避けられない。
1980年代、日本も企業文化の問題などで米国と衝突したでしょう。
今後、米中間でこうした衝突は間違いなく増えていく」

「しかし、武力衝突は何とかして避けなければならない。
これが『衝突管理』の考えであり、キーワードだ。
米中の『新型大国関係』とは、文化や思想の衝突を管理することはないが、
軍事上の衝突については避けるために管理しよう、という考えだ」

===これまでの2国間関係と新型大国関係の違いは何ですか。

「友好の程度に合わせて、中国には4種類の2国間関係がある。
まずロシアなどとの『友好と協力の関係』。
フランスやドイツなどとの『普通の関係』。
その次に米国との『新型大国関係』があり、最後に『対抗の関係』がある。
今の日本との関係だ。
新型大国関係は対決はしないが、競争はする関係であり、
友好度では普通の関係にも及ばない。
対抗関係よりはましだという程度のものだ」

「今までのところ、米中の新型大国関係は『偽りの友人関係』の状態にある。
でも、それは永遠にこのままであることを意味しない。
新型大国関係であれば、偽りの友人でありながら、本当のライバルにもなりうる。
協力をつうじて米中間の競争を管理する。
それが『新型』なのだ」

===今の米中関係を冷戦時代になぞらえて、
「涼戦(クール・ウォー)と呼ぶ人もいます。

「どうだろう。
戦わないが、冷たい関係だった冷戦時代よりも、
温度は上がったのだろうか。
私に言わせるのならば、逆に寒くなったのではないか。
凍り付いてしまい、戦争ができない状態。
『氷戦(アイス・ウォー)』だと思う」

===習近平国家主席が進めようとしている外交とは何ですか。

「国家の尊厳の問題を解決する外交だ。
中国の経済的な地位は上がったが、依然として、
それにふさわしい国際的な尊敬を得られていない。
例えば旅券でいえば、中国よりも日本の方が(渡航の自由度が高く)
ずっと便利でしょう。
中国は国内総生産(GDP)で日本を抜いているのに、だ」

「我々は友だちが少ない。
世界第2の経済大国なのに、米国に比べて友だちが少ない。
米国と同盟関係にあるといえる国は約40。
我々は(事実上)ゼロだ」

===だから、同盟関係が必要だとの主張ですね。

「中国が今後も非同盟政策を続けるなら、
強大な軍事力を自分たちに向けることはないのかと思う国が出てくる。
同盟を結ぶことで、周辺の『小国』に安全保障上の脅威を与えないと
保証できる。
同盟を結ばなければ、周辺国が怖がるのは当然だ。
例えば、もし米国が日本との同盟関係をやめたら、
日本は米国が怖くなるのではないか?」

===あなたの言う小国の方が、
中国と同盟を結びたくないのではありませんか?

「彼らが結びたいかどうかは関係ない。
中国が結びたいかどうかの問題だ。
中国が金を出すのだから、保護されるのを嫌だと言う国はないだろう」

===昨年10月、習主席は「周辺外交工作座談会」を開き、
周辺国との関係重視を打ち出しました。

「過去において、米国は中国の外交政策の重点中の重点だった。
しかし、将来、周辺国が重点となる。
例えば、米国とロシアの立場が違うとき、我々は原則上はロシアの側に立つ。
少なくとも米国の側に立つことはない。
シリア問題がその典型例だ」

===日本との関係も周辺外交の一つですか。

「中日関係は非常に重要だ。
今、安倍政権との交流を拒絶するのは、それが両国関係の改善には
役に立たないと考えるからだ」

===南シナ海でも米中衝突への懸念があります。

「米中は海上安全をめぐる管理ルールについて議論を始めている。
中国が求めるのは、南シナ海だけでなく、全世界を範囲とした(米中間の)
ルール作りだ。
しかし、米国は『中国はグローバルな海軍大国ではない』として、
これに応じたがらない。

「でも、時間がたてば、中国海軍はどんどん強くなり、艦艇も増える。
米国は議論の範囲を南シナ海から東シナ海へ、さらに太平洋へと拡大する
ことに同意するに違いない」

===南シナ海問題で、東南アジア諸国は米中関係の変化に直面しています。

「東南アジアだけでなく世界の多くの場所で、中国と米国は競い合っている。
東南アジアの国々は中国と米国のどちらにつくかの選択を迫られている。
今後、(米中の)二極化がさらに進めば、ますます多くの国がその選択を迫られる」

===選択はゼロサムですか。

「仕方がない。
国際的な枠組みは、一極化から多極化ではなく、二極化に進む。
これは客観的な実力の変化によるものだ」



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「取材を終えて」

強硬路線 中国に危うさ


閻学通氏と会ったのは、北京の頤和園近くにある清華大学の緑に囲まれた
キャンパスでだった。

習近平国家主席や胡錦濤前国家主席ら多くの共産党指導者を輩出した名門校は、
米国との深いゆかりの歴史でも知られる。
前身の創設は、19世紀末の義和団事件で米国に支払われた賠償金がもとである。

政府系シンクタンクの社会科学院などと並び、独自の対米外交政策を
提言する同大の国際研究部門のトップである閻氏の主張は、
これまで、中国の強硬派路線を代表するものと、海外では位置づけられてきた。

しかし、今や、習指導部の対外姿勢と、その主張の多くは重なる。
これを支えるのは、習主席の主要な権力基盤であり、自らの力の増大によって、
強気の姿勢をあらわにする軍部などからの声である。

「米国は日本の行為に警戒すべきだ。
悪人に寛大であってはならない」

常万全国防相は8日、訪中したヘーゲル米国防長官との共同会見で、
「安倍政権」を名指しし、強い調子で言い放った。
米中軍事交流の公開の場で、ここまで露骨に第三国の日本を批判し、
米国に要求を出すのはこれまでにはなかったことだ。

閻氏はインタビューで、自信たっぷりに身ぶりを交え、
こうした米中の力のバランスの変化を語った。

毛沢東時代、中国という国を国際社会に認めさせるのが外交目標だった。
鄧小平時代は経済成長を最優先し、安定した国際環境の構築が重視された。
それを転換させ、国際社会に中国への「尊重」を求めるのが、習外交である、と。

まさに、「中華民族の偉大なる復興」を掲げる党指導部の
実際の言動と一致する説明である。

しかし、足元を見れば、中国では今、経済の減速への懸念が広がっている。
深刻な「貧富の格差」や腐敗の蔓延(まんえん)など、
党に対する庶民の視線が極めて厳しいのも事実だ。
閻氏の主張は、日本を含む周辺国だけでなく、
中国自らにとっても、一定の危うさをはらんだものである。


(中国総局長=古谷浩一)

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「新型大国関係」

中国の習近平指導部が提起した新たな2国間関係の概念。
(1)対抗せず、衝突しない
(2)互いを尊重する
(3)協力とウインウイン、
との三つを柱にした関係だと中国は説明する。
オバマ政権は当初、この言葉に対する態度表明をしなかったが、
昨年秋から同政権高官が演説などで言及。
米中首脳は3月、同関係の構築を目指すことで一致した。
ただ、両国の理解が同じものかどうかは明確でない。

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