米の覇権構造から問い直せ 新たな基地建設に反対の署名

米歴史学者 ジョン・ダワー氏に聞く

対米関係に縛られ 日本は声なくした

沖縄基地問題  信濃毎日新聞2014年4月14日

JOHN DOWER 1938年生まれ。61-62年空軍勤務、
62-65年金沢、東京で教員・編集者、72年ハーバード大で歴史学、
東アジア言語の博士号。91-2010年までマサチューセッツ工科大教授。
現在は名誉教授。著書に「容赦なき戦争ー太平洋戦争における人種差別」
「忘却のしかた、記憶のしかた」など。


米国の日本占領に関する研究の金字塔『敗北を抱きしめて』でピュリツァー賞を
受賞したジョン・ダワー米マサチューセッツ(MIT)工科大学名誉教授は今年1月、
沖縄での新たな米軍基地建設に反対する声明に世界の著名人の1人として署名した。
日本と沖縄への最新のメッセージを教授に聞いた。
(聞き手は共同通信ニューヨーク支局長 船津靖)


=なぜ沖縄の新基地建設に反対する声明に署名を?

「沖縄が日米両政府に利用され、犠牲にされてきたという思い。
そして沖縄は『米国の覇権』という巨大な問題の一部との認識からだ」

「沖縄は戦争末期、大日本帝国の犠牲になった。
1945年2月、近衛文麿らは昭和天皇に戦争終結を提言したが、
帝国政府は徹底抗戦して米国に本土侵攻を断念させようとこれを拒否した。
そして、51年のサンフランシスコ講和条約で沖縄は再び犠牲にされ、
日本の主権回復の代償として基地の島となった。
ドイツ、朝鮮半島、ベトナムは分断国家と呼ばれたが、
ある意味で日本も分断国家だ。
72年の復帰後も沖縄は他の日本と異なる扱いをされてきた。
沖縄の人々は自分の声を持つ権利がある」

=米の覇権とは?

「冷戦時代、沖縄の米軍基地は中国封じ込めや朝鮮、
ベトナムでの軍事行動に使われた。
米軍は朝鮮戦争で太平洋戦争中に日本に投下したより多くの爆弾を村々に落とし、
残酷で犯罪的な空爆で100万人以上が犠牲になった。
沖縄はベトナム空爆の主要基地にもなった。
この空爆では、推定200万ー300万人が殺された。
米国は世界中に基地を張り巡らす基地帝国主義国家なのだ。
犯罪、退廃、環境破壊の元凶である『基地の帝国』、沖縄はこの帝国の一部だ」

「米国は国家安全保障国家とも呼べる。
国防エリートや企業、学者ら金をもうける既得権益層が支えている。
最近は監視国家にもなった。
すべて極秘で米国がどこで何をやっているのか分からない。
オバマ政権は地上軍の投入は望まないが、世界中で特殊部隊が秘密作戦を行っている。
特殊部隊国家でもある。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)と新基地建設が進められようとしている辺野古
(名護市)の問題は沖縄だけの問題ではなく基地帝国全体にかかわる。
米の覇権の構造全体を問い直すべきだ」

=尖閣諸島の領有権を中国が主張している状況をどう見るか。

「いまの中国は警戒すべきだ。
だが日米両政府が『防衛』と呼ぶものが中国には挑発的に映ることも
念頭におく必要がある。
朝鮮戦争からアフガニスタンとイラクでの戦争まで、
米国の政策が無鉄砲で無責任だったことも見る必要がある」

=安倍晋三政権について。

「ナショナリズムをあおり、一層の緊張をもたらしている。
ただ、中国にも責任がある。
中国のナショナリズムもすさまじい。
国内問題から目をそらせるため利用している。
悪循環だ。
ナショナリズムほど潜在的に危険なものはない。
これを抑制し、非軍事的な解決を探るべきだ」

「安倍首相らは、日本の過去の行為を消し去ろうとしている。
戦争では誰もがひどいことをする。
米国は日独の都市を空爆し広島と長崎に原爆を落とした。
日本人もアジアでひどいことをした。
日本に誰かが来て『朝鮮人の名前に変えろ』と命じたと想像してみるといい。
日中戦争では1千万人以上が死亡した。
太平洋戦争では日本人も約300万人が死亡した。
愚かな戦争だった。
戦争指導者がこの大量の死をもたらしたのだ」

「日本の右派の有力政治家が歴史を美化しようとするたびに、
韓国や中国そして世界中で日本への不信が生み出されている。
愛国を語って国益を損じている。
安倍政権は中国の右派への贈り物だ」

=日本外交の問題の根源は?

「私は日本に希望を持っていた。
素晴らしい経済的手腕、平和国家としての独自の立場、広島、長崎からの視点
、、、。
しかし日本は平和の伝道者にはならず、対米関係に縛られ自分の声をなくした。
安倍首相は靖国神社に参拝してナショナリストになることで米国から距離を置き、
自立性を誇示しようとしているが、それは間違った種類のものだ。
日米は安全保障関係を維持すると思う。
だがイラクに米国が侵攻したとき、ドイツのように『それは愚かだ』
と言う関係になるべきだ」

「米国は沖縄にひどいことをしてきた。
軍事基地に反対する声を聞くべきだ。
その声は悲劇の経験から来る。
戦争がどんなものか知っている沖縄の人々の声には平和へのビジョンがある」

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