91 介護保険への不満を解消するアイデア

日経メディカル 2013年12月26日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/irohira/201312/534274.html

「介護の社会化」を標榜して、介護保険制度が発足して13年になる。発足時に約4兆円
だった財政規模は2倍以上に膨らんだ。介護従事者も同様に倍増しているという。介護
保険は国民の間に定着しているようだ。
 
しかし現場では、利用者、介護従事者の双方に不満がたまっている。まず、緊急事態で
すぐに介護者を派遣してほしいときに役に立たない。制度が複雑になりすぎて、利用し
にくい。要介護認定の仕組みが分かりにくく、介護度の判定に対する不満も多い。居宅
では、月々の給付の上限額である支給限度基準額に縛られて、十分な介護を受けられな
い。特に訪問看護や訪問リハビリテーションの利用に制限がかかりやすい。重介護者の
場合は、在宅では十分なサービスを受けられず、施設利用にも限界がある。介護保険料
が高い…などなど。

超高齢社会が目前の現在、介護保険はどのように生まれ変わらせればいいのか。
 
その切実な問いかけに、真正面から答えた本が『やりなおし介護保険』(増子忠道著、
筑摩書房)である。20の視点から介護保険の改革を訴えているが、いずれも的確にポイ
ントを突いている。いくつかを紹介しておこう。


◎急護120番通報システム

「急護」とは増子氏の造語で、緊急の介護が必要な状況を指す。夫の介護をしている妻
が急に体調を崩したような場合、妻は救急車を呼べば病院に搬送して治療してもらえる
が、夫を介護する人がいなくなる。このように緊急の介護力が必要になったとき、介護
保険には対応できる仕組みがない。そこで「在宅療養支援診療所」のシステムに似た「
24時間在宅ケアチーム」を地域ごとに創設する。介護保険の中に、急護状態の介護に対
する報酬制度をあらかじめつくる必要がある。


◎要介護度をA・B・Cの3段階に集約

 7段階もの介護度はそもそも多すぎで、制度の複雑化を招いている。国民の誰もが分
かるように、ドイツ式にA(何らかの支援が必要な状態)、B(支援がないと家から出ら
れない状態)、C(支援がないとベッドから出られない状態)の3段階に集約。こうすれ
ば暫定認定は即日可能で、迅速な対応ができる。


◎支給限度基準額を廃止し「平均総額」の仕組みを導入
 
支給限度基準額の枠内で、個々の要介護者のサービス利用量を決める現行方式では、柔
軟に運用しにくいことがある。そこで、もっと柔軟に利用できるようにするため、「平
均総額」(規定支給額×利用者数)という考え方を採り入れる。例えばA~Eまで5人の
利用者がいて、その平均給付額が2万単位だったとしよう。この2万単位を5人のグルー
プの「規定支給額」とし、仮にAさんのサービス利用額が1万5000単位だったとすると、
差額の5000単位を、2万単位を超えて利用したいEさんの給付額に上乗せするという方法
。全体で平均してバランスを取り、一定の枠内でサービス利用を融通する考え方だ。


このほかにも訪問看護は医療保険に一本化、株式会社に代わる介護法人の法制化、訪問
介護の直行直帰の廃止、認知症の介護は身体介護と別建て…など、斬新なアイデアが満
載されている。



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