特定秘密保護法案  モンゴル核問題にも影

信濃毎日新聞 2013年11月26日

専門家2氏に聞く  日本絡むウラン開発計画

外交情報隠匿の恐れ 危機感


「日本の原発に密接に絡んでいるモンゴルの核エネルギー開発計画が
ますます闇に葬られてしまうのではないか」-。
特定秘密保護法案の国会審議が大詰めを迎えるなか、日本とモンゴル
の原発をめぐる問題に取り組んできた研究者らが危機感を強めている。
外交に関わるモンゴルのウラン開発が特定秘密に指定され、
知る権利を奪われる恐れがあるからだ。
今年の夏、専門誌「モンゴル研究」で核問題を特集した
長野市の清泉女学院大学教授、芝山豊さんと、
大阪大准教授の今岡良子さんに聞いた。(編集委員・増田正昭)


写真キャプション ドルノド県マルダイ村のウラン鉱の残土。
旧ソ連が採掘した。野積みにされている(撮影・今岡良子さん)


モンゴルには豊富な地下資源があり、
社会主義時代には旧ソ連がウランを採掘していた。
1990年に事実上、社会主義路線から市場経済に転換して以降、
モンゴル政府は本格的な資源開発に乗り出した。
芝山さんによると、ウランについても採掘や輸出を推進し、
原発を建設する方針を掲げている。

しかし、東日本大震災、福島第1原発事故が起きた2011年、
モンゴルに使用済み核燃料の国際的な処分場を建設する計画が
日本、米国、モンゴルの政府間にあるとした日本でも報道がモンゴル
にも伝わり、同国内では反核・反原発運動が一気に高まった。
モンゴル政府は最終処分場は造らないとしているが、
国民は警戒を緩めていない。

「計画が白紙に戻ったという保証はなく、モンゴル産のウラン燃料
を日本に輸出した場合、再処理するという名目で使用済み核燃料
をモンゴルが引き取る可能性がある」と芝山さん。
「特定秘密保護法ができれば、両国政府や企業の動きを知ること
はますます難しくなる」と懸念する。

現地の事情に詳しい大阪大学の今岡さんによると、フランスのアレバ
社系企業が10-11年、ドルノゴビ県でウランの試掘を行ったところ、
周辺の遊牧民の家畜が大量死する事件が起きた。

モンゴルの家畜繁殖研究所は今年3月、「重金属と放射性物質が原因」
との調査結果を公表したが、政府は、家畜の死亡の原因について、
ウランとの因果関係を否定。
現地の遊牧民らが5月、ウラン開発反対の記者会見を開くなど
大きな社会問題になっている。

「家畜が放射性物質に汚染されたというニュースは、
国民に衝撃を与えている。
外国の使用済み核燃料の処分場にはしないと政府がいくら説明しても、
ウラン開発を進めていることは事実。
疑問を抱く国民は少なくない」と今岡さんは言う。

安倍晋三首相とアルタンホヤグ首相は今年3月、
ウランバートルで首脳会談を行った。
厳しい警察の規制のなか、環境グループや反核団体が
「原発? 私たちにはいりません」
「ウランは掘らん! ウランは売らん!」といった日本語の
プラカードを掲げ、安倍首相に決意を訴えた。

今岡さんは以前、福島県の被災者から「モンゴル政府の動きを
しっかり監視して」と励まされた。
「特定秘密保護法が成立すれば、両国間の核廃棄物処理問題など
重要な情報が隠されてしまう可能性が高い。
暮らしと命に直結するというのに、両国民の知る権利が奪われかねない」
と、廃案を強く訴えている。


モンゴルの使用済み核燃料処分場問題:
共同通信は2011年7月、モンゴルが自国産のウラン燃料を
原発導入国に輸出し、使用済み核燃料はモンゴルが引き取る
構想を報じた。
共同通信が入手したモンゴル・日本・米国の3カ国政府の
合意文書原案に基づく報道で、モンゴル国内に使用済み燃料
の貯蔵施設を建設する方針を明記している。
(11年7月2日、19日付本紙朝刊に掲載)。

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