悲しみのMINEGOLIA   JP通信 VOL.183 2013 NOV

芝山 豊(清泉女学院大学教授)

●ある環境保護活動家の逮捕
 
2013年2月、国連環境計画は世界環境デーのホスト国をモンゴルとすると発表した。地
球温暖化の影響を強く受けながらも、環境保護に努力を続けるモンゴル政府の「賢明な
政策」が実行に移されれば、地下埋蔵資源開発と伝統的遊牧の共存によるグリーン経済
の実現を世界に示せるとの期待によるものだった*1。
 
日本のメディアは無視したが、環境のノーベル賞とも言われるゴールドマン賞のWEBサ
イトはこのニュースを大きく伝え、2007年にゴールドマン賞を受賞した牧民出身の環境
活動家ツェー・ムンフバヤルの取り組みを再び紹介した。オンギ川域の水資源を鉱山乱
開発から護る彼らの草の根環境運動は、09年「河川源流、水資源保護地域、及び森林地
帯における鉱物資源探査・利用の禁止に関する法律」*2として結実し、広大な国土を
乱開発から救った。今日この法律は「長い名前の法律」と略称されている。
 
しかし、国連環境計画の期待とは裏腹に、13年9月16日、この「長い名前の法律」の改
悪に反対して行動を起こしたムンフバヤルらが逮捕された。政府よりのメディアの伝え
るところでは、9月16日、ウランバートル中心部、ルイ・ヴィトンなどが入る高層ビル
他数ケ所で爆破予告通り爆発物が発見され、環境保護団体のデモに銃を携帯して参加し
ていた彼らが逮捕されたという。まもなく、モンゴルの環境NGOのゴロムトは、故郷の
自然と暮らし、民族の権利、大衆の利益と輝かしい未来のために命がけでの運動を続け
るムンフバヤルら愛国者にテロリストの濡れ衣を着せようとしているとして、強く政権
を非難する声明を出している。
 
事件の詳細は定かではないが、ムンフバヤルの言説には「銃をとってでも戦う」という
刺激的な表現が使われることがある。暴力は否定されねばならない。ただ、深刻な環境
破壊が牧民の生活を根こそぎ破壊し、失うものは命しかないというところまで、彼らを
追い詰めていることも事実だ。フランスのアレバの子会社、コジェ・ゴビ社ウラン試掘
現場で起きた鉱毒被害によって、数100頭の家畜が死に、採掘現場で働いた者の中に健
康被害がでているとして、ドルノゴビの牧民たちは必死の訴えを続けている*3。しか
し、そうした牧民たちに対して、モンゴル人の一部から、海外企業から金をせびろうと
しているとか、ロシアや中国の策動に加担する非国民だとかいう中傷がなされている。


●モンゴルのウラン鉱山開発とグローバル企業
 
開発と共存できるはずの牧民たちの悲鳴をかき消し、環境保護法改悪に向かわせるもの
は何か? それは、Mine( 採鉱)とMongoliaの国名をもじってMinegoliaと称されるほ
どの鉱物資源開発の熱狂がもたらした17.5%の経済成長(2011年)への執着である。
 
鉱山開発の典型は、金と銅を主とするオヨートルゴイ鉱山。開発を手がけてきたのは、
ロンドンのロスチャイルド・アンド・サンズの流れを汲むリオ・ティント社、言わずと
知れた資源メジャーである。本格操業でGDPの3分の1を担うと言われるオヨートルゴイ
鉱山だが雇用や利益分配率などをめぐって問題が続出している。
 
2012年の総選挙前、巨大な隣国中国への強い不信と反発を背景に、外資の動きを制限す
る外国投資法が成立した。外資側としては、先行投資を回収するだけの大きな儲けがで
ない、これでは11年のような高成長率は維持できませんよ、というわけで、法律の制限
緩和に向けて圧力をかけることになる。13年の大統領選挙で再選を果たしたエルベクド
ルジと対立候補モンゴル相撲元横綱バトエルデネの対立軸は、地下埋蔵資源開発のイニ
シアチブをとるのが民族国家かグローバル資本かという点であった。「長い名前の法律
」制定の立役者の一人バトエルデネが勝てば、多国籍企業は活動しにくくなり、外資が
国から出てしまうというキャンペーンがさかんに行われた。
 
国の豊さは、経済成長率ではなく、富の分配によって国民に実感される。モンゴルの貧
困率は29.8%、腐敗認識指数はいまだ94位にある。選挙後、いよいよ、各法律が開発優
先、外資優遇にむけて改悪されるのではないかと心配するモンゴル人は少なくない。
 
ウラン開発について言えば、ことはもっと深刻である。モンゴル国はウラン開発を国家
戦略として位置づけ、他の鉱物資源とは異なる法整備を行っているからである。牧民た
ちの牧地に対する権利はさらに制限され、安全保障を理由に情報は開示されない。
 
既に、古株のロシアのほか、フランスのアレバ、中国のCNNC、カナダのデニソン・マイ
ンズなどが出資するLLCがウラン開発を行っているが、日本も、2009年7 月の「原子力
エネルギーとウラン資源に関する協力覚書」で産学官による原発導入に向けた人材育成
と、ウラン資源開発に係るモンゴル国内投資環境の改善、情報交換、相互訪問などを決
め、13年3月の「エルチ・イニシアチブ」でそれらをさらに強化した。
 
中国、新華社のWEB誌『中華経済』は「中日が“モンゴル資源争奪戦”」と題する記事
を載せ*4、住友商事は設備提供などを通じてオヨートルゴイ銅・金鉱プロジェクトか
ら大きな恩恵を受けていること、モンゴルが原子力機関を創設した09年の7月、両国首
相がモンゴルのウラン鉱開発連携で合意し、同年12月、アレバがモンゴルでのウラン鉱
山プロジェクトに三菱商事を招き入れ、三菱商事が地質調査費用およびウラン鉱開発費
の34%を負担するかわりにウラン鉱山権益の34%を手に入れていること、また、それに
先だち、08年12月、丸紅はモンゴルでウラン鉱採掘に力を入れているカナダのハーン・
リソース社らとドルノド、マルダイ、ゴルバンボラグの鉱床への採算性調査を行う権利
を手に入れたことなどを紹介し、モンゴルにおける日中ウラン争奪戦における「第三の
隣国」日本の優位を伝えている。
 
記事中の3鉱床の地域こそ、11年5月に明るみに出た核廃棄物最終処分場の候補地である
。11年7月、共同通信は、米大手WHを子会社に持つ東芝が5月中旬、米政府高官に書簡を
送り、使用済み核燃料などの国際的な貯蔵・処分場をモンゴルに建設する計画を盛り込
んだ新構想を推進するよう水面下で対米工作を進めていると報じた。東芝は書簡を送っ
たことを認め「モンゴルのCFS構想は、国際的な核不拡散体制の構築、および同国の経
済発展に寄与できるという点で意義がある」と述べている。原発推進は核燃料サイクル
なしにはあり得ず、核燃料サイクルはバックエンドの構想なしには絶対に成立しないか
らである。


●核燃料サイクルの中のモンゴル
 
2013年5月、安倍首相がトルコへの原発輸出を明言し、7月、ロシアでIAEAの天野之弥事
務局長は「フクシマ後にはチェルノブイリ後のような停滞はない」と原発への新参者を
鼓舞し、東芝は欧州やアジアなどでの原発事業強化のため、英国で原発新設を進めるフ
ランス、スペインの合弁会社を買収する方向で最終調整に入った。自国内のモンゴル族
らの権利を無視してバックエンドを用意する中国、ロシアと違い、日米英仏の原発ビジ
ネスの成否はモンゴル国の出方にかかっている。13年9月末の異例の私邸でのモンゴル
大統領との会談後、安倍首相は10月末のトルコ再訪を決めた。モンゴルの大地からウラ
ンを掘り出し、世界中に原発を売り込み、燃料サイクルの中間貯蔵と称してモンゴルを
核のゴミ捨て場にする計画は確実に進んでいる。
 
2013年9月、WEB版ワシントンポストに逮捕前のムンフバヤルとのインタビューを含む「
天かけるモンゴル経済への代償」という記事が掲載された*5。米人記者は、アメリカ
的な暮らしを真っ向から否定し、遊牧の人間らしさを説くムンフバヤルの説教に辟易の
様子だが、今、われわれが知るべきなのは、抽象化された概念としてのヒト、モノ、カ
ネの移動ではなく、彼らが語る大地を家畜とともに移動する生身の人間の生き方である
。核燃料サイクルという虚妄を断つ鍵がそこにある。


1)http://www.unep.org/newscentre/default.aspx?DocumentID=2704&ArticleID=9416

2)Гол, м?рний урсац б?рэлдэх эх, усны сан б?
хий газрын хамгаалалтын б?с,ойн сан б?хий газарт ашигт малтмал хайх, ашиглахыг хориг лох тухай хууль (LAW TO PROHIBIT MINERAL EXPLORATION AND MININ G OPERATIONS AT HEADWATERS OF RIVERS, PROTECTED ZONES OF WATER RESERVOIRS AND FORESTED AREAS)これはモンゴルでは長い名前の法律と略称されるので、英語でも LLN
- つまり、law with long name と称されている。

3)これについては、今岡良子「モンゴル国ドルノゴビ県におけるアレバ系コジェ・ゴ
ビ社のウラン鉱毒事件― 2013年6月15 日現在のまとめ ―」(『モンゴル研究』28号
、2013年7月)に詳しく紹介されている。

4)http://www.xinhua.jp/industry/metal/348844/

5)Bill Donahue “Mongolia’s economy is soaring, but at what cost?” http://w ww.washingtonpost.com/lifestyle/magazine/mongolias-economy-is-soaring-but-at-w
hat-cost/2013/09/19/251db682-09af-11e3-9941-6711ed662e71_story.htm

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