89 「国家戦略特区」で医療はどうなる?

日経メディカル 2013年10月31日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/irohira/201310/533239.html


アベノミクス(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)
の三本目の矢として、「国家戦略特区」が注目されている。
都市再生や雇用、農業、教育など10分野にわたる特区内で、
大幅な規制緩和を政府が検討している。

当然、医療も射程に入る。
同特区のワーキンググループは、国内外の優れた医師を集め、
最高水準の医療を提供できる、世界トップクラスの『国際医療拠点』を
作ることを掲げ、次のような検討項目を示した。

・国際医療拠点における外国医師の診察、外国看護師の業務解禁
・病床規制の特例による病床の新設・増設の容認
・保険外併用療養の拡充
・医学部の新設に関する検討

医療を市場化し、イケイケで儲けようとする「上げ潮派」は、
特区を市場原理導入の突破口にしようとさらなる規制緩和を叫ぶ。
一方、医療の公益性を重視する医療関係者は特区内の規制緩和で
国民皆保険制度が今にも崩壊するかのような危機感を訴える。
どちらも重要な視点には違いないが、こと医療に関して国家戦略特区の
社会への影響は、まだまだ未知数だ。

例えば、混合診療の一部解禁として根付いている保険外併用療養が
どこまで拡張されるかは見通せない。
ワーキンググループの文書には「医療水準の高い国で承認されている
医薬品等について、臨床研究中核病院等と同水準の国際医療拠点において、
国内未承認の医薬品等の保険外併用の希望がある場合に、
速やかに評価を開始できる仕組みを構築する」と記されているだけだ。
保険外併用療養の自由診療部分に当たる医薬品等の評価の迅速化が唱えられてはいるが

その量的、質的な拡大を示唆する文言は含まれていない。

また外国人医師、外国人看護師への門戸開放も、国際交流や
多文化コミュニケーションの観点からは肯定的にとらえられようが、
そもそも日本の皆保険制度の下で医療保険料を負担していない
外国人患者のために、皆保険制度の下に培われた医療資源を投じていいのか、
という本質的問題もはらんでいる。

民主党政権下では、国際的な医療政策として「医療ツーリズム」という
言葉がもてはやされた。
海外の富裕層を患者として日本へ呼び込み、
お金を落としてもらおうという発想だった。
が、その結果は惨たんたるものだ。
東日本大震災の発生で富裕層患者の来日はピタッと止まった。

「国家戦略特区」で日本の医療が変わるのか、変わらないのか。
その議論を見守りたい。

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