87 患者紹介ビジネス、老いや死が商売にされたら敗北だ

日経メディカル 2013年8月28日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201308/532196.html

 地域に密着した医療であるはずの「訪問診療」が、一部で闇ビジネスの金づるになっ
ていた。

 8月25日付の朝日新聞は一面トップで「患者紹介ビジネス横行」と題した記事を掲載
した。同紙によれば、紹介業者が高齢者施設で暮らす患者を医師にまとめて紹介し、見
返りに医師が診療報酬の一部を業者に支払う「患者紹介ビジネス」が横行しているとい
う。これまで噂では聞いていたが、実際に業者が医師に患者を紹介する手口などが紹介
されていた。

 医師が通院困難な患者の暮らす自宅や施設へ定期的に出向く訪問診療は、24時間・36
5日体制の診療所(在宅療養支援診療所)から月2回以上継続して訪問すれば診療報酬が
大幅にアップする。患者1人を診て得られる診療報酬(在宅患者訪問診療料)は1回830
点(同一日に同一建物の居住者を診療した場合は建物の種類により200点または400点)
とされているが、月2回以上(往診含む)継続して訪問すると在宅時医学総合管理料(
一般の在宅療養支援診療所で処方箋を交付しているところは4200点)または特定施設入
居時等医学総合管理料(同3000点)を算定でき、処方箋料や検査料を含めれば報酬は計
6000点を超えるケースもある。月1回の訪問診療で十分な患者でも2回足を運べば、報酬
はぐんと増える。紹介業者は、これら報酬の2割程度を「口銭」として要求するのだと
いう。

 高齢患者を人身売買するような手口は倫理的に許されるはずもないが、規制する法律
はないらしい。

 厚生労働省は、(1)医師が過剰な診療をする可能性がある、(2)患者が医療機関を
選ぶ自由を奪う―などの理由から「不適切な医療」と判断し、情報収集を進めているよ
うだ。医師が「そんなことをするはずはないと思っていた」と厚労省の担当者はコメン
トしている。同省は業者側の規制は困難なので、医師への規制を検討し始めたという。

 「地域」には、様々な欲望や思惑が渦巻いている。性善説だけでは通用しない。そこ
を規制するのはかなり難しそうだ。患者紹介ビジネスは、紹介業者と医師の間にお金が
介在しており、営利目当てで高齢患者を診る権利が売買されているから指弾される。
 
 しかし、紹介者と医師の間に表面的なお金のやりとりが介在しなかったら、どうなの
だろう。高齢者施設が直接、医師に訪問診療を依頼しているケースはある。地域の高齢
者を支援しているNPO法人が、特定の在宅療養支援診療所に訪問診療を委ねる例も見聞
きする。医師側が紹介料こそ払わないもののNPO法人にお金を寄付するとしたら、どう
なるのだろう。いずれの場合も、「患者が医療機関を選ぶ自由」は損なわれる可能性が
ある。
 
 訪問診療は何のためにあるのか。患者が暮らし慣れた地域で穏やかに人生を全うする
ための「寄り添う医療」として期待されているはずだ。露骨な患者の争奪は、厚労省が
推奨する「地域完結型」の医療を遠ざける。

 同僚で佐久総合病院小海診療所長を務める北澤彰浩ドクターは、「死ぬことは敗北で
はない」と語る。名言であり、しかも納得できる。しかし、、、老いや死が商売にされ
たなら、それは敗北だ。

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