「論点」’13参院選―TPP

一気のみするのか 佐久総合病院医師、色平哲郎さん
毎日新聞長野県版 2013年6月22日

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉は農作物・畜産分野ばかりではない。
知的財産や薬価、投資など21分野にわたって、原則として関税を撤廃し、
グローバル企業の活動を制限する規制や法律も「非関税障壁」として
なくすことを目指しているという。

だが、肝心の条文や交渉内容は参加国の取り決めもあってか、公表されていない。
どういう交渉をしているのか国会議員にも分からない。
それなのに、菅直人元首相をはじめ、歴代の政権は参加の方向を決めた。
内容がよく分からないのに、なぜ「参加OK」なのか。
農業や医療など個別に話し合うべきテーマを一気のみするつもりなのか。

私は2年半前から、TPP参加については「くれぐれも慎重に」と言い続けてきた。
良いも悪いも十分な判断をする根拠が足りないからだ。
2011年成立の米韓FTA(自由貿易協定)で、韓国国民の多くが知らない間に、
韓国側に不利な条項が盛り込まれたように、
不平等条約になるのではと心配している。

米韓FTAやTPPには投資家と国家の紛争を解決する「ISD条項」が含まれ、
投資家が投資先の国のルールで不利益を被ったと考えたら、
国家を相手取り損害賠償訴訟を起こすことができる。

医療面では「日本の宝」ともいえる国民皆保険が壊れかねない。
保険証1枚で誰もが気軽に医療を受けられる制度は日本でこそ当たり前だが、
海外では全く違う。
1人当たりの医療費は自由診療が中心の米国が世界一高く、日本はかなり安い。

TPP参加で規制が緩めば、国内で低めに抑えられている薬価が上がることだろう。
保険診療と保険対象外の自由診療を併用する「混合診療」が全面解禁される
方向となると、結果として経済力による医療格差、地域格差が開きかねない。

農協や医師会が「TPP反対」と叫ぶと、多くの人は「利害関係者だから」
とみるだろうか。
でも、食料自給や誰もが平等に医療を受けられる制度の維持は
国民の命に関わる大問題だ。

最近は「参加してもメリットはなさそう」とみる国会議員が増えてきている。
日本政府はメリットがあるのなら説明をしてほしい。

TPPは貿易や通商の問題を越え、国家の主権に関わる問題ではないのか。
知的財産や投資を巡るルール変更などあらゆる領域で、
国内法を超えてグローバル企業の利益が優先され、
国家主権が揺らぐことにつながりかねないと危惧する。

【聞き手・武田博仁】 =つづく

いろひら・てつろう
横浜市出身。1960年生まれ。53歳。京都大医学部卒。
県厚生連佐久総合病院などを経て、98―2008年、
南佐久郡南相木村国保直営診療所長を務めた。
現在は佐久総合病院地域医療部地域ケア科医長。

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