〜国益とは? 国民益とは? 今、TPP交渉の本質を考える〜

http://www.gin-pachi.jp/2/topics/568 

外交・貿易・財政・金融・農牧林水産業・医療・社会保障の各分野から
日本社会の現状とTPP交渉の現状とを探り、検証して参りたく思います。
TPP交渉が「日本社会」にどう影響をもたらすのかを考える論議に参加し、
あるべき姿・あってほしい姿を政府に提言してみませんか?

2013年2月1日@銀座にて  色平哲郎

みなさま初めまして。
信州は長野の善光寺から来た僧侶です。
というのはウソで、お医者さんです。
お坊さんもお医者さんも嫌われています。
人さまのご不幸でごはんを食べている職業だからでしょうか。
一生に一度は、お世話にならなければならない。

人の死亡率は何パーセントでしょう?
残念ながら百年後、今この場においでになる方は一人もいらっしゃらない。
死亡率百パーセントの世界ですので、否が応でも日本の医療保険や医療機関に
かかることになる、というのが、みなさまほとんど全員の運命です。
そんな意味で、病院やそれを支える医療制度、決して好きにはなれないものだが、
人生最後の場面で「おたがいさま、おかげさまで」というあり方をかろうじて担保。
医療保険こそ重要で根底から日本の国柄を支えている社会制度だと感じる次第です。

私の人生観は、「みんなで一致してやったことは、危うい」。
そんな人だからなのでしょうか、、、2年前、東京紙は正月の社説ですべて一致して
「TPPは素晴らしい万能薬であって、(がんも含め)すべての病気が治る!」。
なんちゃって、まるで死亡率がゼロになるかのように、経済の夢を語っていました。
私は各紙を読み、ホントかいなと違和感を感じ、海外情報から勉強をはじめました。

批判でもなく「実態が判らない以上、くれぐれも慎重に」と述べたこともありました。
一昨年、2011年秋、野田前首相がハワイに行くにあたり、
多数のテレビ局がわざわざ信州の私のところになんどもなんども取材に来ました。
戸惑いました、、、一市民である私、何も交渉内容を知らないのですから。
野田さんに聞いてきてよ、というお話。
公開情報がほとんどなく、国民はもちろん国会議員さえ詳細が判らないというのに、
どうして各紙が自信満々に書いたのか?なぜまた私のところに取材に集中したのか?
そんなふうに戸惑った結果が紙資料として今日みなさまのお手元にございます。

去年10月6日、東京新聞に書かせていただいた拙論です。
そしてめくっていただいたところには、
「米価は下がり、薬価は上がります」という文面をつけさせていただきました。
去年5月に開催された、「市民と政府の意見交換会〜TPPを考えよう〜」の記録。
内容は、私なりに質問し、内閣府担当政務官が答えた議事録になっております。
ご関心あれば本文をクリックくださいますよう。

みなさま、成分が解っていない、そんな薬物を「二十数粒、一気飲みで飲め」、
などという治療法、免許をもったフツーの内科医はやりませんよ。
さきほど藻谷さまもおっしゃいましたように、未だ診断がはっきりしない段階。
病歴も不明、データも画像も見ていない、という段階で治療なるものにふみきれば、
オペするにしても患者さんが死んでしまう可能性があるわけでしょう。
いったいどこをどう切って、なにを摘出するのか判らない。
あとで訴訟が必発という位、医師の立場からするとビクビクもの。
とんでもない治療法、それでTPPって「Tとんでもない、Pペテンの、Pプログラム」
ではないのか、肝腎の中身が判らない、とくりかえし申し上げて参りました。

野田前首相、いったいアメリカのどこの病院で研修を受けた専門医なのでしょう。
蛮勇あふれるご発言ぶりにはびっくり。
お薬には必ず多少の副作用がございますので、副作用がどうあり得るかと
考えてご説明、ご納得いただいたうえで飲んでいただくもの。
まして「二十数分野、一気飲み」ではたとえ病気が治っても結局どの薬が効いたのか、
処方した医者にも判らない、なんて、とんでもないことになりかねない。
そんなわけで、申し訳ないことに、「とんでもない、ペテンの、プログラム」なんて、
メディア向けニックネームをつけてしまいました。

議事録の最後にも記載がございますが、最終ページの一番下のところ。
「反対なのですか?」と問われて、反対とも、いえない、賛成ともいえない。
そんな卑劣な人間です。
だって処方内容が判らない、カルテ記載もない、保険病名も症状詳記もない。
この治療法いかがでしょうか?と聞かれても、良いともダメともコメントできない。

医療費がここ日本では安すぎるのかもね、という議論があって、多少なりとも
みいり良く、懐具合がよくなっていくようであれば、うれしいことだよなと
感じている、そんな医療側の本音もあるんです。
でもこのTPPを押し進めることによって薬価がどう動くのかということについて
各国の消息を伺ってみたら、アメリカ合衆国での処方薬薬価は日本の約3倍。
なるほど、これでは決して安くはならないだろう、、、議事録表題にもあります
ように、米価は下がる、おお、けれど、薬価はまず上がる、これ、ほぼ確実。
米韓FTA交渉ほかの交渉経緯からみてもここは明らか。

薬価が上がるとわたしども儲かるなぁ、、、
この会場で私だけ医療側、みなさまは医療を受ける側、おっとホンネを言っちゃった。
でも、医者の私も将来老人になった際、医療を受ける側にまわるわけですから、
効くお薬の薬価があんまりハネ上がっているようだとまずいなぁとは考える。
また、薬価が上がれば、医療費の全体額が膨らむ。
やった、儲かる!

まぁ合衆国のように野放図に膨らますことができるというなら、病院は万々歳。
でも、日本財務省、必ず大枠をかけてきます。
薬価が膨らんでもいいよ、といったところで、膨らんだ後で枠をかけられると、
薬価が膨らんだ分、人件費がはみでてアウト。
医師不足なるもので医師給与が下げられない、となったらどうなりますかね?
看護師さんの給料が下がっちゃうんですよ、たぶん。
今でもぎりぎりでやってる国内病院の病棟運営がアウトになることは明らか。
つまり自分たち全員の老後や「死に場所」がアウトになりかねないような、
配合成分のわからない”抗ガン剤”なる魔法の薬、二十数粒も一気飲みするの、
それは”くれぐれも慎重にしたほうがよろしいよ”というのが、この間、
卑劣な私がくりかえしくりかえし政府に申し上げていることでございます。

こちらに「ヘルプマン!」というコミックが。
今日私がしゃべっていること、たいした意味もありませんので、恐縮。
でも、みなさま、ぜひこの介護コミック、特に第8巻をご覧になっていただきたい。
読んだ方、手を挙げていただけます?
かなり、今日の会場においでになりますね。
第8巻がよろしいと思います。こちらは”TPPを読み解くのに役立つ
コミックですよ!”というふうに、私あちらこちらで宣伝して回っております。

講談社の回しものですね。
「ヘルプマン!」第8巻のテーマ。
外国人ヘルパーが登場、都会でくらすフツーの日本人の老後がどうなっていくのか。
現状どう女性方にご負担をかけているか、より一層負担をかけていくことになるのか。
日本は目下世界最高速度、最大規模で超高齢社会に突入していっているわけですので
かろうじて保たれている”日本の宝”国民皆保険制度を守り育てていけないようなら、
結局、国民全員、最後はドツボにはまる。そんな危機感を共有いただき、
みなさまご自身が自分の老後をついて考えてみるテキストに使っていただきたいと、
議員会館などで講演する際にも、このコミック、薦めて回っております。

そろそろお時間でしょうか。一旦切りましょうか。
まだ、よいの?
だんだんネタがなくなってきましたね。
さきほど、水野さまがおっしゃいましたISDですけど、これは私、
「Iインチキ、S訴訟で、D大損害」と呼んでおります。

WTOという自由貿易を旗頭にしている国際機関の事務局長さん、
パスカル・ラミーさんが昨年11月5日の日経新聞インタビューで
「TPP評価は保留」と答えています。
なんだ、私と同じ態度じゃない、、、レベルはだいぶちがうけど。
「TPPの意義を判断することは現時点ではできない。
世界の自由貿易体制を強くする枠組みになる可能性もあるし、その逆かもしれない」
WTO体制のなか、例外として認められているような代物を野放図に進めて
いって良いのかどうか、ホントのところよく判らない、といったところなのかも。

TPPに賛成しないのは一種の鎖国論だ、と断ずる向きもあるようです。
しかし、ことTPPに関しては、むしろ世界のブロック経済化をおしすすめ、
自由貿易体制を阻害しかねないという懸念も一部にはあるのかもしれません。

いま手元にアメリカ商務省が1990年代にやった調査結果があります。
各国の薬価制度が自由化された場合、製薬産業の市場規模がどの位拡大するか
について試算した統計データ。
政府による価格統制がある場合と比較して、ない場合には処方薬の市場規模
が3割ほどは増大する、との結論。

先ほどの話題は、同じ薬剤であっても、人間のお薬ではなく農薬問題でした
けれども、いろいろな商売のチャンスにもなっていくだろうということは
米国商務省でも認知されている様子です。

時間の制約もあり、今日は「いわゆる混合診療」についてこの場で申し上げる
ことはできません、お手元の東京新聞掲載の拙論をご覧くださいますよう。
また、議事録末尾には一昨年秋の最高裁確定判決についてふれておきました。
まぁ、ここの全面解禁を認めるとなると、良い悪いは別にして、順次、
お金のある人とお金のない人とで”所得に応じた階層医療を是とする”ことに
つながっていく流れになりましょう。

従来、一見、良さそうに聞こえてきてはいたのですが、アメリカ医療の実情を
知れば知るほど、日本でもおぞましい事態に至るのではないかというふうに、
今日のセッション全体を通じ、みなさま少し感じとっていただけたでしょうか?

お手元の議事録にもございますが、合衆国は一般日本人にアメリカの民間医療
保険を商品として売りこみたい立場。
ですから”21世紀の初頭、アメリカが策謀し、結果日本の皆保険制度が潰れた”
などと、後世の日本の学校教科書に書かれたくはございません。
つまり、ステルス・マーケティングに徹しておいでなるわけでしょう。

でも同じ合衆国、かつて第3分野の保険業につき、解禁を迫ったこともありました。

誰がどう意図しているのかも判らないけれど、構造的には、さまざまな思惑や動き
があるということ、むしろ企業活動としては当然なことではないかと存じます。

グローバル時代に於ける日本の国際的な役割を、TPP参加云々に矮小化すべき
ではないと感じます。

もし日本が国としての存在感を国際的に高めたいのなら、国際保健分野での協力活動、
あるいは国民皆保険なり世界中から”日本の宝”と評価されているような社会制度を
こそ世界に向け発信していくことに努力すべきなのではないかと期待致しております。

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ダメモトで要求、一度通れば次々要求、などのやり方は日本的ではありません。
控えめで集団主義的な日本人とは真逆な交渉手口が世界で広がっていると伺います。

一方で、日本語でのメディア報道にはバイアスがかかっていると感じます。
日本では中国の悪口を書くと記事が売れるような傾向がある、という意味です。

国外にいろいろな友人がいるので、いろいろに伝わってくることなのですが、
日本の各人が友人たちを海外に多数持ち、日本人の良いところをアピールしていく、
つまり生き馬の目を抜くなんとかなどとはことなった落ち着いた立ち居ふるまいこそ、
現代世界に意義あることだと感じます。

私は信州の山村で十年以上暮らし、村の人々とおつきあいして高齢化のいきついた
日本社会、その近未来のあり方を垣間みさせていただきました。
東京近郊が今後20年ほどの間にどうなっていくのか、という近未来絵図を日々、
多少先んじてながめているうちにいろいろ感じるところがあって、
先ほどお回しいたしました介護コミックなりを通じ、発信するようになりました。
介護の今後がどうなっていくのか、とても心配です。

日本社会が今後20年かけてゆっくりと、しかしどうやって超高齢社会を
くぐり抜けていくのか、その解決策を考えるなどなど課題は山積されています。
「多死社会」「ひとり暮らしの激増」などどう乗り越えていくのか、
その処方箋こそ、ぜひ、みなさま方に考え抜いていただきたい。

総選挙など国政選挙での政策討議も、「すきな人とすきなところでくらし続ける」
ことを可能にできる、そんな社会支援、街づくりの方途、であってほしいもの。
「すきな街に手・テを加えると、すテきな街に変わるんだよ!」
といったノリでお願い致します。

アメリカ人で都内で働く友人が先日訴えてきました。
地下鉄に乗れない、いつ揺れて水没するかわからない、水責めがこわい。
山手通りから環七あたりが燃えて、いつ火責めにもなるかもわからない。
彼は真顔で心配していました。
そんな地震国だからこそ、古来日本人がもっていた「もったいない精神」や
「おたがいさま、おかげさまで」といったこころねが防災面で役に立つのかも。

そして解決すべきは経済問題ばかりでなく、
ジャイアン=スネオ関係に立ち現れるさまざまな外交圧力です。

ジャイアンって合衆国のこと?スネオってだれのことか判りませんけど。

昨年1年間の議論を通じTPP加盟のメリットがはっきりしなくなった昨年秋、
開催された昨年11月9日の第49回日米財界人会議共同声明(仮訳)
には以下の記載がありました。
「アジア太平洋地域における日米の経済関係および協力」の項で、
「日米の経済関係の強化は、重大な局面での全般的な結びつきを確実に強固にし、
よって、地域の安定確保につながる」と記されています。
安全保障問題なのだということでしょうか。

カナダのように隣国アメリカとのタフな交渉に慣れている国柄のところでさえ、
合衆国に上院・下院があり、”議会と政府で二重外交をやっている”と
疑心暗鬼に陥いるほどに、現状は複雑怪奇な交渉過程になってきています。

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本日はみなさまから正しい”診断”を教えていただき、たいへん助かりました。
また勉強になりました、ありがとうございます。

日本がどう病んでいるのか、、、案外経済が元気だということも判りました。
私の感想は「日本って、超安定社会なんだね」ということです。
まぁ多少の問題点はございましょうが、平和で繁栄しているすばらしい国ですよ。

みなさま、医師不足について解決するにはいったいどうしたらよいですか?
これは実に簡単なことなんです。
医者を輸入するか、あるいは患者を輸出すればいいんです。
経産省的な解決策ってこういう手法。
現実にはそうはしきれないところがあり、日本では悪い冗談にしかなりませんが。

「別々の部屋でしゃべっているような状態」とのご指摘につきまして。
一言でいうなら、実はみなさま一蓮托生だということ、とお答えいたしましょう。

人の死亡率は百パーセントで、またそんなには伸ばすことはできやしない。
この会場においでの半数はガンになり、全体の3分の1はガンで亡くなります。
6分の1に関して、一旦は救い上げることができるという計算でしょうか。

一昨年、WHO国際会議に招かれました。
世界中でWHOが推進している皆保険制度を半世紀以上も前になし遂げた日本。
でもその後ここまで経済成長したにもかかわらず、持続可能でないとは、、、
といった点に質問が集中いたしました。

去年、今年と世銀幹部が来院しました。
長野県の特に東信地域は、世界で最も長寿命の日本、その日本の中でも最も長寿命。
しかも老人医療費が安いのはなぜ?と奇跡の理由を聞いてきましたので、
それは医者がアホだからです、とお答えしました。
奇跡は奇跡的には起こらない、つまり医療を商売にしてはいないという含意です。

わたしどもは農協・協同組合の専従職員ですので、決してお金を
儲けるために医療をしているのではない。「金持ちより心持ち」です。
医療に恵まれていなかった農民層を最終的に包摂したことで、
日本の国民皆保険制度が成立し得たわけです。
今後なにかあって崩壊しかねない、となるのも農村部からなのかもしれません。

支払う健康保険料、もちろんそれは少なければ少ないほど良いこと、と、
みなさま思われるのかもしれませんね。
でも最後には返ってくるんです、、、
自分や家族の番になったら、医療費は高めにつかっても大丈夫、という方が、
余裕があった方が安心なのだといことこそ、みなさまのホンネなのだと思います。

ひとつの財布でひとつの国全体の国民がカバーされている皆保険以上に合理
的な制度はありません。
アメリカ人こそよくわかっています。
それはアメリカ医療がとんでもないことになってしまっていることの裏返しです。

さきほどから、教育、リセット、そしてまた「否常識」というお言葉、
水野さまがおっしゃいました。
アメリカ人はこれをunlearnと表現しているようです。
翻訳すれば、「学び捨てる」とか「学びほぐす」とかいった感覚、
たぶん「おもいこみを捨てる」という文脈なのでしょうか、これこそ重要。

みなさま自らが情報にアクセスすることから、主権者として、
われわれ医療者をつき動かすようなみなさまの働きを期待したいと思います。

ご静聴、ありがとうございました。

参考文献:オバマ政権の通商政策とTPP、および日本の医療  
http://www.jmari.med.or.jp/research/dl.php?no=460 

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TPP加入で風前の灯 危機的状況の国民皆保険制度 
http://irohira.web.fc2.com/d21_TPP.htm
「談論誘発」 東京新聞 2012年10月6日

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米価は下がり、薬価は上がります
http://irohira.web.fc2.com/d03_TPP_again.htm
「市民と政府の意見交換会〜TPPを考えよう〜」記録から抜粋 
日 時:2012年5月22日(火)18:20-21:00 

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