81 昨年は自殺者が減少、しかし、、

日経メディカル 2013年2月27日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201302/529212.html

警察庁のまとめ(速報値)によれば、昨年1年間の自殺者数は27766人で、15年ぶりに3万人を下回った。2011年より2885(9.4)減り、統計を取り始めた1978年以降で最大の減少率になったそうだ。年間の自殺者数は、北海道拓殖銀行の破綻、山一証券の自主廃業など、1997年に金融機関の倒産が相次いだ翌年の1998年に急増し、14年連続で3万人を超えた。

ピークは小泉構造改革の真っただ中の2003年で実に34427人を数えている。その後も32000人前後で推移していたが、昨年、ようやく3万人を下回った。自殺者が減った背景について、内閣府は「分析には時間がかかる」として詳しいコメントは出していない。自殺者が減少したこと自体は、非常に喜ばしいことだ。ただ、年代別の自殺者数の推移をみると、40歳代後半以上の自殺率が低下しているのに対して、2030歳代の自殺率は高まる傾向にある(資料はこちら)。

http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2012/html/gaiyou/s1_3.html

「これは、うつと診断された若い世代の自殺が増えていることを物語っているのではないだろうか」。などと類推しながら、自殺関連の文献を調べていて、はっとする論文を見つけた。精神科医でノンフィクション作家の野田正彰氏が「新潮45(20127月号)発表した「対策費200億円でも なぜ自殺は減らないか」である。そこには、「うつ病キャンペーンが始まると自殺が増える」という驚くべき事実が記されていた。

例えば自殺対策のモデル事業で知られる静岡県富士市では、事業を開始した2007年以降、自殺者数が増えたという。以下、やや長くなるが、野田論文を引用する。

(静岡県富士市では)県と市、市医師会、市薬剤師会、富士労働基準監督署が共同して、「パパ、ちゃんと寝てる?」の呼びかけリーフレット、ポスター、路線バスの広告、地場産業のトイレットペーパーで繰り広げた。「疲れているのに2週間以上眠れない」→「うつ」かも→かかりつけ医、精神科へ。

この脅しと短絡思考で作られた図式は間違っている。2週間以上、まったく寝れない人などまずいない。

多くの人は会社の経営方針の転換、労働環境の悪化、住宅ローンや借金、教育費、家庭関係などで悩み、雑多な考えが浮かび眠れないでいる。休みをとれないこと、運動不足、楽しい時間の欠如がさらに追討ちをかけている。これらの問題を整理し、解決していくための道筋を探すことなしに、改善はあり得ない。

「よく眠れた?」という呼びかけは、その人へのいたわりであっても、向精神薬への誘いに使われてはならない。野田氏は、「向精神薬」の安易で大量の処方が、うつと診断された人を自殺へ追い込んでいるのではないか、と警鐘を鳴らす。

そもそも精神科の「治療」はどうあるべきか。社会全体で議論されてもいいように思う。

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