史上最大の薬害か
=若者たちが自殺している=
==自殺対策で自殺が増える==
===診療所増加でも患者は減らず===
====症状を悪化させる薬====
=====医師と製薬会社の関係=====

震災被災地で「回診」がなされ、抗うつ薬の野方図な使用が拡大
自死者遺族が、外来診療で悲嘆を聴きとってもらえず、うつとして同様の安易処方に
現在、アメリカ合衆国で巨額賠償金が支払われる薬害判決が続出中
医師教育がなっていないので、末尾論文を読んだ患者がかかる「別の医師」がいない
抗うつ薬の出荷額は年間700ー800億円(患者価格では1000億程度)
それと対策費200億円を足すと、年間1000億
減らないどころか、むしろ自殺者が増えているのは、SSRIの影響か

抗うつ薬や抗精神薬がひきおこす薬害のひどさに関し、医師間で認識不足

タミフル、抗うつ薬、抗精神薬、イレッサ、リタリン・コンサータ、問題は山積
参考文献:「暴走するクスリ?−抗うつ剤と善意の陰謀」
http://www.npojip.org/contents/book/book008.html
http://www.yakugai.gr.jp/topics/file/20051123_lecture_ja.pdf
http://www.yakugai.gr.jp/topics/file/20051123_SSRISeminor_ja.pdf

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対策費200億円でも なぜ自殺は減らないか

精神科診療所が増え、新薬は開発され、自殺対策基本法もできた。
それでも自殺が減らないのは、対策の根本が間違っているからである。


=若者たちが自殺している=

仙台の田中幸子さんは、健一さん(長男・34歳)を突然失った。
若くして宮城県警の警部補(係長)になった健一さんは、上司と年長の部下たちに
よるいじめのなかで重要な仕事を担当させられ、なんとか耐えていた。
2005年5月、高校生3人が死亡する事故が発生、休日もとらず対応に当った。
次第に疲弊し、吐き気、めまい、耳鳴りがひどくなり、課長から毎日
「うつなんだろう」と責め立てられるようになった。
精神科・心療内科を受診しようとしたが、最初の診療所は、「87番目の患者、
朝来ても夕方まで待たなければならない」と言われ、諦めた。
次に訪ねた診療所は、「名前書くところ分かりますか。
書いてさしあげましょうか」といった痴呆扱いなのにあきれて、止めた。
第三の心療内科で、すぐうつ病と診断された数の薬を渡された。
「限度一杯の薬を出している」と医者に言われ、飲んでいれば良くなると
信じて服用していた。
だが服用3週間後、自死した。

田中幸子さんが診療所に電話し息子の自死を伝えようとすると、
「受診しないと話は聞けない」と言われた。
初診の受付けをしないと、医者に会うこともできない。
亡くなったことをやっと伝えると、医者は「ああ、そうですか」
と言っただけで、治療の説明もなく、お悔やみの言葉さえなかった。

心療内科に通いだして、少しも良くなった時はない。
どのように過ごせばよいか、家族はどうすればよいか、助言があったわけでもない。
悲嘆のなかから、田中さんは同じ自死遺族同士で語りあおうと仙台で呼びかける。
06年7月、「藍の会」が作られ、急速に全国に広がり
「全国自死遺族連絡会」となっていく。
同会は、「マスコミや国・自治体のキャンペーンを信じ精神科で治療を受けていたのに
亡くなった、何故?」を解くために、会員調査を始めた。
結果は、亡くなった1016人のうち69%が精神科受診、しかも
全て精神科治療の継続中。
つまり抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬などの向精神薬を多数服用していたのである。

年代別では、20代から40代の若い男性が圧倒的に多く、
しかも若い世代ほど精神科受診率が高かった。
40代男性(225人)、30代男性(328人)、20代男性(213人)で
合計766人、75%を占める。
これは中高年男性が多くを占める全国の自殺統計(例えば10年度、
50代、60代で37%、40代から20代では41%)とは異なる。
自死遺族連絡会には、強く家族の死を悼む相対的に若い遺族が集まっているの
であろうか。

精神科受診率は40代から20代で、亡くなった851人のうち630人、
74%が受診している。
いかに若い世代がキャンペーンを信じ、また精神科医療への偏見なく、受診し、
薬を飲めば治ると信じ、増える薬に苦しみながら亡くなっていったかを物語っている。

近年は自殺者の若年化が着実に進行している。
(なお自殺の名称について、遺族はこの言葉の否定的側面を嫌い、
自死と呼んでいる。
他方、国家や集団から強制された死にもかかわらず、自決と美化する文化も
日本には根強い。
さしあたってここでは、西洋語に対応することばとして自殺を一般語としておこう。)

98年度の自殺統計が発表されたとき(99年6月)、その急増に衝撃が走った。
3万2863人(警察庁発表)、前年比で35%増。
とりわけ大都市圏に多く、例えば東京都内では実に1.5倍になる。
この増加分の多くを、50代、60代、40代後半の男性が占めていた。
97年の北海道拓殖銀行破綻、山一証券自主廃業、完全失業率3.5%に
顕現するように、バブル経済崩壊後の不況は庶民が持ち堪えられる限界に来ていた。
ここで「中高年男性とカネと自殺」はセットになって、
社会問題の一角に躍り上がったのであった。

典型例はこうである。
高校を卒業した若者が大都市、大都市近郊の中小製造業に就職。
やがて結婚。
歳と共に増える給与収入を前提に、若くして住宅ローンによりマイホームを購入。
90年代になり、不況でまず会社の残業がなくなり、次にボーナスが減る。
手取り給料が減っても、住宅ローンは毎月定額払わねばならない。
子どもの教育費も増える。
行き詰った中年労働者に、業績不振の会社は割り増し退職金つきで早期退職者を募集。
それに応じて思い切って辞め、退職金で一息ついたものの、製造業の職はない。
使い捨ての営業職、そして派遣会社へ、さらに収入は不安定になり、
サラ金の債務も膨らむ。
夫婦の関係も冷くなり、家を出た一人の男は、何もしてあげられなかった妻子
のために命を絶ち、住宅ローンを組むとき掛けさせられていた生命保険で家と
小さな土地を残す。

個々の条件は少しずつ違っていても、一本の流れが通っている。
この流れは、大企業にいて、まだ退職していない労働者しか診ていない産業医
には見えてこない。
(私の論考「自殺が組み込まれた社会を変えようではないか」、
東京市政調査会「都市問題」、11年2月号参照のこと。)

だが、上記の理念型は次第に崩れていく。
年齢別の自殺率を図にすると50代、60代男性の自殺率は減少し、
かわりに20代、30代男性が大きく増え、40代男性も高留りとなっている
(図1)。
98年の自殺率を1として年齢別にすると、若年者の自殺率の増加がはっきりする
(図2)。

これは何を意味するのか。
カネで行き詰る中高年男性は老いていき、「自殺はうつ病」のキャンペーンによって
精神科外来を受診した若い世代の男性が、減った分を補い、
すでに14年間になる3万人超の自殺者数を保ってきたのではないか。


==自殺対策で自殺が増える==

98年に自殺が急増しても、政府は何も対応しなかった。
その後、清水康之さん(元NHKディレクター)らによる国会議員への啓蒙が
ようやく成功し、06年10月、やっと「自殺対策基本法」が施行された。
07年度には246億円、08年度には225億円、09年度には159億円に
加え地域自殺対策緊急強化基金100億円が追加、10年度には124億円、
11年度には134億円が自殺対策として計上されてきた。
だが、「自殺はうつ病、精神科を受診しましょう」という誤ったキャンペーンは、
連続14年にわたり年3万人超(総計で40万人超)の自殺者の数を減らせずにいる。
各県横ならびの自殺予防パンフレット、「命を大切に」の講演会、
新聞広告が、自殺総合対策の三点セットになっている。
これらのキャンペーンは98年の自殺急増問題に答えようとせず、むしろ
2000年代になり、うつ病キャンペーンと共に若年層(20代、30代、
40代前半)の自殺者が確実に増えていることを無視してきた。

自殺対策、うつ病キャンペーンが始まると自殺が増える、
という信じがたい事実がある。

今、自殺対策のモデル事業として喧伝されている静岡県富士市の
「富士モデル」なるものがある。
県と市、市医師会、市薬剤師会、富士労働基準監督署が共同して、
「パパ、ちゃんと寝てる?」の呼びかけをリーフレット、ポスター、路線バスの広告、
地場産業のトイレットペーパーで繰り広げた。
「疲れているのに2週間以上眠れない」→「うつ」かも→かかりつけ医、精神科へ。

この脅しと短絡思考で作られた図式は間違っている。
2週間以上、まったく寝れない人などまずいない。
多くの人は会社の経営方針の転換、労働環境の悪化、住宅ローンや借金、
教育費、家族関係などで悩み、雑多な考えが浮び眠れないでいる。
休みをとれないこと、運動不足、楽しい時間の欠如がさらに追討ちをかけている。
これらの問題を整理し、解決していくための道筋を探すことなしに、
改善はあり得ない。
「よく眠れた?」という呼びかけは、その人へのいたわりであっても、
向精神薬への誘いに使われてはならない。

さらに、かかりつけ医、精神科医に不眠を訴えるとどうなるか。
現状の精神科医療がどうなっているのか、調べたことがあるだろうか。
不眠、うっとうしいと言っても、多くは原因に対する反応としてのうつ状態
であっても、うつ病であることは少ない。
だが精神科診療所を受診すれば、問題を十分理解してくれることもなく、
質問表にもとづく簡単な質問でうつ病と診断され、うつ病即抗うつ剤、
睡眠導入剤、精神安定剤の投与になる。
次回、やはり苦しい、よく眠れないと言えば、次々に向精神薬が増量、
多剤併用になっていく場合があまりに多い。

富士モデルの成果は自殺の急増だった。
富士市で睡眠キャンペーンが始まったのは07年7月。
図3に見るようにキャンペーンと共に自殺者は大きく増えている。
日本精神神経学会総合シンポジウム(10年)で富士モデルを厳しく批判した
櫻澤博文さんによると、09年7月の「一般医から精神科医への紹介システム」
運営委員会では、08年度は自殺者が前年度の1.37倍と報告されている
にもかかわらず、同年9月の「自殺対策シンポジウムinしずおか」
では不明として公表せず。
静岡県のホームページから仔細は削除されていたという。
櫻澤医師は、不眠を根拠に精神科医による加療をさせたことが自殺者増加につながった
のではないかとし、「富士モデルで不治も出る」と批判している。

しかし結果を隠し、検証もしないまま、富士モデル、睡眠キャンペーン、
一般開業医と精神科医の連携運動は、内閣府の自殺対策推進室、各自治体の
自殺対策として行われ続けている。
富士モデルを見ならい、滋賀県大津市が09年から内閣府の地域自殺対策
緊急強化基金を使い(09年度97万円、10年度502万円、
11年度286万円、12年度243万円)、「こころやからだの不調」
なるものを精神科医につなぐキャンペーンを行っている。
しかし、始めた翌年度の自殺者が81人(前年比15人増)となり、
07年から3年連続で66人と横ばいだったのが、一気に1.2倍になっている。
11年度の大津市の自殺者はまだ公表されていないが、
少なくとも66人を下らないと思われる。
大津市は富士市のように結果データを隠していないが、原因の究明は行っていない。

何故ここまで現象を見ないのか。
たまたま自殺対策を始めた時と、自殺者増が重なっただけ、と説明するのだろうか。


===診療所増加でも患者は減らず===

さらに精神科関連の統計は、理解に苦しむ現実を語り続けている。

(中略)


====症状を悪化させる薬====

単なる診断、精神障害のラベル張りで終るならば、それほど弊害は起きなかった
かもしれない。
だがいずれの精神障害名にも、向精神薬の投与が結びついている。
うつ病と診断されて精神療法や環境の調整に導かれる外来患者は極めて少ない。
ほとんどの人が抗うつ剤、睡眠導入剤、抗不安剤を処方され、
再診のとき「まだうっとうしい」「よく眠れない」と言うと、さらに薬が増やされる。
同じ薬の増量だけでなく、他の系統の薬が多剤併用されていく場合が非常に多い
(35%という調査がある)。

(中略)


=====医師と製薬会社の関係=====

他にも、精神科外来医療の粗製濫造と自殺増加の関連を伝える現象はあまりに多い。
08年には、通院精神療法の診療報酬について「診療に要した時間が5分を超えた
場合に限り算定する」と改定された。
5分以下の診療、しかもそれを精神療法と考える精神科医療が行われていることを、
政府が公然と認めたのである。
だが2分が5分になっても、何が変わるのか。
20分になっても、30分になっても、精神病理学的に患者の内面を聴きとる能力
がなく、心理的・社会的に問題を分析する知性がなくして、
どうして精神療法が行えるのだろうか。

患者が目の前に座ると、誰でも聞くことができる「眠れない」、「うっとうしい」、
「食欲がない」といった訴えを、すぐうつ病の診断に結びつける精神科があまりに
多くなった。
続いて、うつ病の診断はSSRIなどの抗うつ剤の処方と固く結合している。
どのような精神科医が作られ、抗うつ剤が振りかけられてきたか、
開業医向けの医学書を開くとよく分る。
例えば『精神障害の臨床』(日本医師会「生涯教育シリーズ64」、04年)
の「抗うつ薬治療の原則」には、渡辺義文教授(山口大精神科)が次のように書いてい
る。

「気分の落ち込み」や「執拗な身体不定愁訴を訴える患者に対して、
うつ病との鑑別を迷う場合には、スクリーニング的にまず少量のSSRI
(ルボックス25ー75mg、パキシル10ー20mg)を1ー3週間投与する
ことを勧めたい。
効果がみられれば抑うつ神経症、身体表現性障害という神経症圏の疾患ということにな
り、
効果がみられなければうつ病の可能性が高いため、精神科に紹介することを勧める

まるで隠し味か、「味の素」のように抗うつ剤が使われている。
こんな思考停止を誘う文章が、5人の精神科教授や精神科医の監修によって
日本医師会会員すべてに配布されている。
類書をあげれば限りがない。
例えば中川敦夫氏(慶応大)は99ー03年の自殺率低下とSSRI処方量増加とは相関し
ており、
「住人1000人あたりSSRIのDDD(一日投与量)が1つ増加すれば、
自殺率は約6%低下する計算になる」(臨床精神医学、07年6月号)と書いている。
パキシルの製薬会社グラクソ・スミスクラインは、全国の精神科医にこの論文を配布す
ることを忘れない。

とりわけ内閣府自殺対策推進室の座長である、国立精神神経医療センター総長の
樋口輝彦氏の活躍はすさまじい。

(中略)

こうして98年以降の精神科医療を見てくると、精神科医全員が妄想を抱いている
のではないかとすら思える。
チェックリストでの診断、うつ病のセロトニンやカテコールアミン仮説、
ストレス脆弱説、長期あるいは生涯にわたる服薬が再発を防ぐ等々。
仮説を毎日聞き、自らも唱えていると、事実に思えてくる。
どれも思い込みから来ている。
真の妄想病ではないのだから、なんとか教育と精神科医療を変革すれば、
市民は救われる。
それまで、私たちはいかに自分と家族、友人、同僚を守ればよいのか、
大きな問題の前にある。

(了)

野田正彰 精神科医・ノンフィクション作家

「新潮45」2012年7月号掲載

1944年高知県生まれ。北海道大学医学部卒。
長浜赤十字病院精神科部長。関西学院大学教授などを歴任。
著作に大宅賞受賞の『コンピュータ新人類の研究』(文藝春秋)、
『犯罪と精神医療』(岩波書店)。
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