79 「資本主義4.0」は医療をどう変えるのか

日経メディカルブログ 2012年12月26日  色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201212/528331.html
「Capitalism 4.0〜The Birth of a New Economy」
(資本主義4.0〜新しい経済の誕生)は、
今後の医療のあり方を考えるうえでも示唆に富んでいる。
邦訳はまだのようだが、著者のアナトール・カレツキーは
「18世紀末から21世紀の現代まで資本主義は4つの段階を移行した」と解説する。

荒っぽく要約すれば、資本主義1は「レッセフェール(自由放任主義)」の時代で
18世紀後半から1930年代の世界恐慌のころまで続いた。

資本主義2では、大不況によって政治と経済の相互作用への期待が高まり、
ケインズ経済学などを採り入れた修正資本主義がメインストリームとなる。
これは1970年代初頭のニクソン大統領による金ドル交換停止―
ブレトンウッズ体制の解体まで続く。

しかし、経済停滞とインフレが同時並行で進むスタグフレーションの危機に直面。
資本主義3の市場原理主義を前面に押し立てたマネタリズムが台頭する。
サッチャー=レーガン革命から2008年のリ―マンショック辺りまで続いた。

カレツキーによれば、現在は資本主義4.0。
ミルトン・フリードマンをリーダーとする市場原理主義の破綻によって、
政府と市場の相互関係は新たな時代に入ったという。

言い換えれば現在は、西側先進国の民主主義的な自由市場資本主義と、
中国に象徴される権威主義的な国家資本主義とが激しい競争をくり広げ、
「成長と発展」の主導権を奪いあう段階だ。
両者のバトルは2010年代のうちに決着がつくと予想している。

中国は、いまや資本主義の歴史的発展段階を左右する大国になった。
アメリカとは体制は違うが、やはりお金がものをいう社会だ。
共産党関係者と一般庶民の経済格差は大きく、
内部にはさまざまな矛盾を抱えている。

国民皆保険制度への布石を打ち始めたと聞くが、
現実にはお金がなくて医療機関で診療してもらえず、
患者の容態が悪化し、死に至るケースも珍しくないという。

にもかかわらず、国家を前面に「成長と発展」を押し進める。
外国に対して「強い」態度を誇示しようとする。
先日、中国のいわゆる「対外強硬派」の代表格といわれる閻学通氏の
インタビュー(朝日新聞12月12日付)を読んで、驚いた。
以下、引用してみる。


「中国と米国との競争と衝突は不可避で、今後10年どんどん激しくなっていくと思う。
国力の差が狭まっていくからだ。ただ、『衝突』といっても戦争ではない。
政治、軍事、文化、経済各面での競争だ」

カレツキーを意識しているようだ。
「米中同様、日中の衝突も不可避ですか」と質問されて、こう答えている。


「その通りだ。
異なるのは米国がまだ中国より強大なのに対し日本は中国より弱いことだ。
時間はかかるかもしれないが日本はこうした状況に慣れ、
中国を競争相手と見ることをやめなければならない」


最近、医療問題の国際会議などでも、妙な自信に溢れ、
居丈高な中国人が増えたなぁと感じていた。
新聞にデカデカと載ったインタビューを読んで、
「やっぱり、そうか」と意を強くした。

この根拠の乏しい自信は、どこから来るのだろう。
経済的高揚感からか、中華思想からか。

医療は基本的に国内の制度だから、資本主義4.0の段階に入ったからといって
急に変化することはないだろう。
しかし、外から巨大な圧力がかかっているのは間違いない。

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