77 都道府県別の医療提供体制?

     日経メディカルブログ 2012年10月29日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201210/527367.html


来春からの第6次医療計画に向け、
都道府県の医療計画策定部門が、大忙しになっているようだ。

従来、医療計画(県によっては保健医療計画)は「国主導」で
県側は受け身となって、5年ごとに手直しされ作成されてきた。

ところが、今年3月、厚生労働省は
「医療計画の見直しについて」なる告示、
それに続く医政局長通知「医療計画について」に於いて、
従来のあり方を大転換。
各県が「自主的」に計画を策定する方向性を、強く打ち出したのだ。

急性期から回復期、在宅療養に至るまで、地域全体で必要な医療が
切れ目なく提供される。そんな「地域完結型医療」を目標に掲げた、
医療計画の見直しのポイントは次のようなものだ。


(1)二次医療圏の設定について
一定の人口規模(概ね20万人未満)の二次医療圏(複数の市町村で構成)について、医
療需給状況を踏まえて、医療体制を検証。
患者流入20%未満かつ流出20%以上の場合は都道府県が設定見直しの検討を行う。

(2)PDCAサイクルの推進
全都道府県が公的統計等によるデータに基づく指標を用いて現状把握→仮題抽出から目
標達成のための施策決定→施策の進捗把握から評価、見直し→住民に公開
というPDCAサイクルを推進する。

(3)在宅医療の医療体制の充実・強化
在宅医療は、これまで”4疾病”(癌、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)・”5事業”(
救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、小児医療)の外に位置づけられてい
たが、その充実・強化のために都道府県が他の計画との連携を考慮しつつ、数値目標や
施策などを記載。

(4)精神疾患の医療体制の構築について 
医療計画に定める疾病に新たに精神疾患を追加。
(つまり、第5次までの”4疾病”は”5疾病”となる)
都道府県で、病期や個別の状態像に対応した適切な医療体制を構築。

(5)医療従事者の確保に関する事項について 
今後、医療従事者の確保を推進するため、地域医療支援センターで実施する事業等を医
療計画に記載。
都道府県による取組みを具体的に盛り込む。

(6)災害時における医療体制の見直しについて 
東日本大震災での教訓をもとに、災害拠点病院や広域災害・救急医療情報システム(EM
IS)や災害派遣医療チーム(DMAT)のあり方、中長期的な災害医療体制整備の方向性が
検討され、報告書がまとめられた。
都道府県は、この報告書の内容を踏まえて災害医療体制を構築。


いずれも、もっともな指摘のようだが、文書に書くことと
実際にこれを現場で実行していくこととでは、大きな隔たりがあろう。

私ごとで恐縮だが、10年前、
長野県庁から第4次保健医療計画についての委嘱を受け、
精神医療以外のほとんどを「ゼロベースから書きあげる」ことになって、
休日に県内をクルマで走り回ったことを思い出す。

当時の長野県は、奈良県と並び、全国で2県だけ
厚労省からの出向者がいなかった。
基礎データがなく、大変難渋した。

現在、都道府県の医療政策担当者は大わらわであろう。
厚労省は、医療保険制度も含め、
都道府県への広域・一元化を強く打ち出している。
今回の医療計画の見直しもまた、その一環なのであろうか。

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■関連記事

都道府県別の診療報酬体系?  

日経メディカルブログ 08年11月17日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/200811/508567.html


 地方では、団塊の世代が「70歳」に達し始める「2015年」に
 大激震が走ると予想されている。
 地方の医療崩壊ぶりは現在でも凄まじいのだが、
 そこに決定的打撃が加わるのではないかと、
 都道府県の医療政策担当者たちは戦々恐々としている。

 というのは、2015年3月から「都道府県別の診療報酬体系」(?)が
 スタートする予定だからだ。そのことは老人保健法から移行した
「高齢者の医療の確保に関する法律」に織り込み済みといわれる。

 同法4条の「地方公共団体の責務」として、
「地方公共団体は、この法律の趣旨を尊重し、
 住民の高齢期における医療に要する費用の適正化を図るために
 取組及び高齢者医療制度の運営が適切かつ円滑に行われるよう
 所用の施策を実施しなければならない」と定める。

 さらに9条で「都道府県は、…必要があると認めるときは、
 保険者、医療機関その他の関係者に対して必要な協力を求めることができる」
 と記されている。

 このあたりが「都道府県別の診療報酬」スタートの根拠になるのだろうか。
 医療費の適正化が当初の設計図通りいくか否かによって、
 都道府県別の診療報酬の範囲が大きく影響されるといわれている。

 団塊の世代の「通り道」は、仕組みの破壊を伴ってきた。
 先日も団塊世代の地方公務員の退職金が、
 莫大な起債で賄われるとの報道があった。
 国が、強い意思で「高コスト構造の是正」や「医療費適正化」を図ろうと
 しているのは、団塊の世代という難物とどう向き合うかという動機づけが大きい。

 現在の全国一律の診療報酬制度では「医療費適正化」に対応できないことを、
 厚生官僚は熟知している。
 医療制度は、だんだん中央集権的なコントロールが利かなくなる。
 医療政策は、地方ごとのハンドリングへ、との筋書きのようだ。

だが…実際問題として都道府県が診療報酬を決める、
 つまり現在の中央社会保険医療協議会(中医協)の機能を
 地方が担うと想像すると、空恐ろしくもなる。

 審議会委員の構成、透明性、医療データの収集、将来予測を踏まえた
 医療技術の評価…診療報酬を決めるために必要な「ひと」「専門知識」
 「公正性の担保」「コスト」などを地方公共団体で、数年のうちに整えられるのか。
 地方が分権で自立していく上で、避けて通れない道かもしれない。
 ただ地方も自らの弱点は、しっかり認識しておく必要があるだろう。
 では地方の医療を弱体化させる危険はどこに潜んでいるか。

 それは地方の「政治」の中にある。
 特定の利害関係者や、ボスが牛耳る状態だと危機は一層深刻化するだろう。

 ある県の医療行政担当者は、こう述べる。

「現在の中医協の全国一律の診療報酬体系では、
 今と同様のドミノ倒し現象が続くと思います。

 地域で診療報酬を決めるということは、
 地域で医療の責任を持つということです。

 深読みかもしれませんが、国は都道府県に医療の責任を
 すべて持たせようと考えているのかもしれません。
 ひょっとすると道州制への布石なのかも…」

 患者さん、患者予備軍の一般の人たちにとって、より良い医療とは何か。
 今から地方ごとに議論を積み重ねておかなければならないのではないか。

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