米価は下がり、薬価は上がります
             
   「市民と政府の意見交換会〜TPPを考えよう〜」記録から抜粋
   日 時:2012年5月22日(火)18:20-21:00
   場 所:文京シビックセンター 2F 小ホール
   参加者:約170名 主 催:市民と政府のTPP意見交換会・東京実行委員会・・・・
  

http://tpp-dialogue.blogspot.jp/2012/07/tpp.html
http://am-net.org/

目次
 第1部 有識者によるTPP解説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p
.02
 第2部 政府によるTPP概略説明、有識者と政府協議担当者との対話・・・・・・・p
.10
 第3部 会場参加者・有識者と政務三役・政府協議担当者との対話・・・・・・・・
p.22

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●色平哲郎(JA長野厚生連佐久総合病院医師):
 みなさん、こんにちは、医師の色平です。日本がなにかしら病気なのだとするなら、
その診断
が確定していないというのに治療をはじめるわけにはいかないと思います。TPP、未だ
中身がよ
くわからないが、「くれぐれも慎重にすべき」と主張しつづけて、1年半が経ちました
。
「TPPに参加すると日本の医療が営利産業化する。その結果、国民が受けられる医療に
格差が生
じる社会になりかねない」と日本の医療団体が先月4月にこぞって反対決議をあげまし
た。
 みなさんに申し上げたいのは、みなさんが比較的安心して暮らせる、その担保として
国民皆保
険制度があること、そしてここが揺さぶられると、農村というより、”都市近郊の普通
の人々の老
後”が直撃されるだろう、ということです。
また、「公的医療保険制度はTPP交渉の俎上に乗らない」ということがいわれています
が、米国
政府からは「交渉項目に入れたい」とは決して言い出さないでしょう。日本の学校で使
う教科書
に、「2010年代初頭、アメリカが強く要求したことによって『日本の宝』公的医療保険
制度が壊
れた」などと書かれる事態を避けるためには当然でしょう。
 半世紀前、まだまだ貧しかった日本で、医師会と政府が協力して国民皆保険制度をう
ち立てま
した。その頃の日本は、今のベトナム程度の経済規模だったと言われています。今、日
本ではだれ
でも比較的気楽に医師にかかりやすい環境です。けれども、世界的には決してそうとは
言えませ
ん。TPPに入れば「米価は下がり、薬価は上がり」ます。米国の薬価は日本の3倍程度で
すから、
どのぐらい上がることになるのか、全国民にとって恐るべき事態だと思います。
 10年ほどの間に、HIV治療薬の価格はなんと百分の一に下がりました。世界中で600万
人から
700万人が救われたと言われています。薬価が下がれば多くの人々が救われます。薬価
が上がると
どうなるでしょうか。医療関係者の間では、薬価が上がれば儲かるのではないか、など
という観
測さえあります。でも日本では財務省が医療費全体に枠をかけて抑制していますので、
薬価が上が
ればその分、人件費を圧迫するしかなくなります。医師不足の昨今、医師の人件費が削
れないと
なれば、看護師の給料が下がりかねません。日本看護協会がどう考えているのか、ぜひ
、伺ってみ
たいものだと思います。
 国民全員の老後に直結するような動きであり、構造的に薬価制度や賃金の問題に直結
してきま
す。安心して「死に場所」を見つけることができないような世の中になっていってしま
うのではな
いかという危惧を持っております。


●色平哲郎(JA長野厚生連佐久総合病院医師):
 では一問だけ。いまの続きで、日本では条約を結ぶと国内法を変えなければならない
というこ
とはわかりました。それでは、アメリカは条約を結んでも国内法を変えなくてもいいの
でしょう
か。また、これはご要望ですが、今の日本は先進国です。ですから、「情報の共有」こ
そが大事
で、ぜひ進めていただきたい。「結論の共有」や「意見の共有」を強要する、などとい
ったよう
な、先進国とは思えないような事態に至らないように、ぜひお願いしたいと思います。


●色平哲郎(JA長野厚生連佐久総合病院医師):
 「国益」と何度もおっしゃっていますが、主権者が国民であることを考えると、これ
は「国民
益」を指すのではないか、と感じました。薬価を安く抑えるのは、医療者の利益になる
かどうか
とはまったく別のこととして、必ず、国民益になる、と確信しています。
 日本政府は、「公的医療保険制度は交渉の対象外」であるとしています。薬価制度に
関するア
メリカからの規制緩和要求について、現状、ほとんど一般には伝わっていない様子です
。2011年
10月27日、小宮山洋子厚労大臣は参議院厚生労働委員会で「金融サービス分野のところ
で保険制
度は検討されていまして、そのなかで公的医療保険制度は適用除外で、制度の在り方そ
のものが議
論の対象とはなっていない」と答弁しました。しかし、実際にはその前月の9月12日、
アメリカ
USTRは「医薬品へのアクセスの拡大のためのTPP貿易目標」という文書を公表し、その4
日後に
は外務省を通じて小宮山大臣も入手していたことが、答弁の直後に報道されています。
 私が申し上げたいのは、アメリカと韓国が結んだ自由貿易協定の中にも医薬品が取り
上げられ
ているということです。米韓FTAで、医薬品の価格を見直す独立機関を設けることは、
日本の一
市民である私でさえ知っていることです。
 これでは、TPPでは「皆保険制度は交渉外」だと言いつのって、保険制度が「金融サ
ービス分
野」で議論されることがなくとも、もし、薬価制度が「別の項目」で議論されてしまえ
ば、薬価
を安めに抑えている日本の制度が変更されてしまって、「事実上皆保険が崩壊する」の
ではない
か、という危惧が大いに残っていることです。(注:当日配布された政府説明資料3『T
PP協定交
渉の現状(分野別)』の4ページに、「医薬品関連のルールは、物品の貿易の分野では
なく、(制
度的事項の)『透明性』の分野での議論の中で扱われている」と書かれている)


●色平哲郎(JA長野厚生連佐久総合病院医師):
 もう一点あります。昨年10月、日本の最高裁である判決が確定しています。保険診療
に関して
は、現状のあり方が正しいのであって、混合診療の全面解禁に至る必要はない、という
内容の判
決です。先ほどのご説明ではTPPに参加するとなった場合、法改正が行なわれるという
ことでし
たが、まさか最高裁判決までひっくり返ることはないと思いますが、その点、いかがで
すか。


●色平哲郎(JA長野厚生連佐久総合病院医師):
 私は反対ではないですね。反対するだけの材料を持ちあわせていません。アメリカが
「保険と
牛肉」と言ってきた際、どうも「保険」には簡保だけではなく共済も入るのでは、と懸
念を抱き
ました。くれぐれに慎重にしていただきたい。私は医師ですから薬価が上がれば利益を
得る可能
性さえあるのですが、にもかかわらず、日本の国民益にはならないと思います。くれぐ
れも慎重に
お願いいたします。
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