70 「アメリカの『失われた10年』が私たちに警告すること」
日経メディカル 2012年3月21日 色平哲郎
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201203/524087.html
社会の流れは、複雑そうに見えて、実は大きな潮流で動かされている。 「政府は必ず嘘をつく」(堤未果著・角川SSC新書)は、その流れをとらえた好著だ。 「原子力ムラ」というのは日本独特の利権集団なのかと思っていたら、 米国、英国、フランスなど核兵器と原発を保有する国々でも ほとんど同じ構造があるようだ。 原発推進にマイナスになる情報は政府や国際機関が隠し、嘘をつく。 原発を推進する資本の側は、どの国でも、 「不都合な事実」を握りつぶそうとするのだ。 たとえば1979年3月に起きたスリーマイル島原発事故の後、原子力産業の資金を 使って調査をしたコロンビア大学は1990年に「放射能流出の人的影響は軽微、 因果関係は証明できず、発癌率増加はストレスによるものだ」という発表をした。 これに対し、ノースカロライナ大学のスティーブン・ウィング助教授たちは 独自の調査で、事故から18年後に、「原発の風下にいた住民の肺癌や 白血病の罹患率は2-10倍」というデータを発表している。 ほかにも、米国のハンフォード原子力施設で働いていた 2万4939人の労働者を29年間にわたって調査分析した トーマス・F・マンクーゾ博士は、癌や白血病にかかるリスクが 一般労働者よりも数十倍高いことを世界で初めて疫学的に証明した。 すると米国政府は、マンクーゾ博士を「危険人物」リストに載せ、 博士の研究成果を抹殺し、研究費を没収したという。 堤氏は、原発事故への対応だけでなく、環太平洋経済連携協定(TPP) についても、日本政府が重要な真実を隠していると警告する。 米国政府がTPPへの日本の参加を求めるのも、 グローバル企業の意向を反映しているからではないのか。 関税を撤廃し、「非関税障壁」と呼ばれる、それぞれの国の規制や法律を 無効化しようとする原動力はグローバル企業のあくなき市場化への欲求だ。 グローバル経済の本家本元である米国自身で、無保険ゆえに毎年 4万人の患者が死亡し、100万人が高い保険料のために破産しているという。 グローバル企業にとって、99%の市民の国籍は意味を持たず、 単なる経済的な「数字」でしかないのが現実だ。 この本の副題「アメリカの『失われた10年』が私たちに警告すること」を 端緒に、この潮流を把握しておきたい。