仮設住宅の診療所長になる内科医
             
  長 純一 ちょう じゅんいち さん 45歳
  朝日新聞 2012年5月29日

トタン屋根の仮設住宅1882戸が立ち並ぶ、宮城県石巻市の開成地区。
31日、市がここに開設する仮診療所の所長になる。
今春まで19年間勤めた、長野の佐久総合病院の職はなげうってきた。

「一時的な支援ではなく、長く関わる覚悟で来ました」

震災後、長野県が派遣した医療団の団長として現地入り。
秋に再訪したとき、5千人近い被災者が暮らす市最大のこの仮設住宅に
付属の医療機関がない、と知った。
その「驚き」が決断の底にある。

「もともと人間が好き」で進んだ医学の道。
信州大で技術偏重の医学教育に嫌気がさしていたころ、
実習先に選んだのが佐久病院だった。
地域医療の草分け。
「病気を診るのではなく人を診る」医療を掲げた故若月俊一院長が、
農民の暮らしに分け入る出張診療を始めた病院だ。
弟子入りのつもりで就職し、へき地の診療所でも実践を積み重ねてきた。

妻は東京の大学で福祉を教える。
会えるのは月1回だが「お互いに理解していますから」。

東北の医師不足に追い打ちをかけた大震災。
厳しい医療事情を乗り越えるには、保健師や介護職、看護師らと連携する
チームワークが不可欠だと考える。
「ノウハウはある」。
佐久で鍛えた自信が、ちらりとのぞく。

「早く溶け込んで、みんなをつなぐ潤滑油の役割を果たしたい」

文・写真 萩一晶

======
inserted by FC2 system