ボランティア山形 著 「市民の力で東北復興」 ほんの木
     

味読 郷土の本    山形新聞 2012年4月17日

評者 色平哲郎 いろひら・てつろう
JA長野厚生連 佐久総合病院内科医

現場に役立つ知恵と技、言葉

米沢市を拠点に、市民グループ「ボランティア山形」は、
ふだんから全国各地の仲間たちと信頼関係を築いていました。
この本は、彼らの幅広い、顔が見えるネットワークが生かされて、
東日本大震災の被災地支援と福島県からの避難者受け入れに
とりくんだ、その貴重な記録です。

ボランティア山形代表理事の井上肇、副代表理事の丸山弘志、
事務局長の新関寧、理事の綾部誠、4氏による座談会形式で
構成されています。
価値観も年齢も異なる人々がボランティアとして集まって
行動するためには、信頼関係を築くことが一番大事。
リーダーに必要なのは、できごとの全体を見渡せる力量―。
こうした現場に役立つ知恵と技、印象深い言葉がたくさんつまっています。

「米沢への避難民は、時限つきの”山形県民”と受け止めるべき」
とし、「何と言っても、被災した人々への雇用が大事」と提言。
米沢市民に、「おもてなし」の心での対応から、今後は、
対等なパートナーになっていくために、コミュニケーションの
重要性を訴えています。

「断らない」「けっして、駄目と言わない」との言葉も。
震災直後、市民が善意で持ち込んだ物資は、ひとまずは受け入れる。
「市民のやる気と、チャンスとタイミングを逃」さないためです。
被災地の避難所で、物資は足りていると断られても、
また他の必要としている人のところへ回る。
そんな粘り腰の姿に感動いたしました。

東北人って、自分から声を出して訴えるのが苦手、
と聞いたことがありました
今こそぜひ、勇気を出して、「がんばろう東北!」じゃなくて
「変えよう東北!」と声をあげてください。
「だれが避難の原因をつくったの?」と声を出して。

この本でボランティア山形は、最初から最後まで
「『復興支援』がいちばん大事」とくりかえしています。
「復興」が大事なんじゃなくて、「復興支援」がいちばん大事!
自己努力ではなんともならない。
だからみんな困っています。
困難を何とか支援したいと集まってきた全国のボランティアの具体的な動き。
山形を拠点に、人々が、心をひとつにして一緒にはたらいた体験と、
今後の展望。
ボランティアにしか語れない、伝わらないホンネがこの本に集まっています。

(ほんの木・1470円)
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