金持ちより心持ち  信州の地域医療の現場から
     

日本農民新聞 2012年3月25日

平成23年度JA共済総研セミナー

JA長野厚生連佐久総合病院
地域医療部地域ケア科医長  色平(いろひら)哲郎氏


戦前の産業組合以来の地域活動が、51年前に国民皆保険制度が実現した
大きな社会的基盤になった。
厚生連病院は現在全国に120か所以上。
自分の医療技術を商品化しない、権威化しない、そんな禁欲的な医師集団
がどこかに存在し続けない限り、農村医療は成り立たない。
 
「弱い者を支えるのが人間の義務であり、民主主義の精神であり、
協同の精神でもある」と唱え、農村医療に60年以上の歳月を
かけて取り組んだ故・若月俊一院長。
彼が実現できなかった夢の一つが、医師や看護師、ケアワーカーを
自前で育てる農村医科大学構想だった。

実現には困難が多いことだろうが、私なりに若い医学生たちに来村
いただき日本の農山村の医療現場、そして途上国の農村をも見て、
感じ取ってもらうようにハッパをかけてきた。
国立大学医学部に講演に呼ばれれば、「一人数千万円の国費を
国民から負託され医療技術を身につけるのだから、卒業後はぜひ
農村やへき地に一定期間、足を運んでくれ」とくりかえしてきた。
 
日本社会が無縁化、限界化しつつある中、互助「おたがいさま」・
共助「おかげさまで」の感覚をいかに取り戻すことができるのか。
農山村にはその点で「こころ豊かな」方々が多く、学ばされることが多い。
私の長年のアジアの友人の一人が語った「金持ちより心持ち」
という言葉に凝縮されているのではなかろうか。
 
ではどうすれば若い医師たちに地域で働き続けることを選択して
もらえるのだろう。
研修医は修行したい思いが強いので、腕がよく教育に熱心な
上級医がいれば集まってくる。
外部で技術研修をしたいとの希望が寄せられた際には大きな心
で送り出すなど、キャリアアップの機会を保証することも大切だ。
地域の人にとっては当たり前のことでも悩む場面も多いのだから、
よそ者≠ェ気楽に相談をもちかけることができる接点もほしい。
たんに高給にすればよいというわけでもなかろう。
地元の反発をかうことがあり得るからこそ、受け入れ側の心意気が大事。

医師の給与格差は日本の外の世界では、都市と農村で、十数倍の格差がある。
だから日本の農山村になぜ医師たちが働いているのか海外の人々
には理解しがたい。
ここは、国民皆保険制度が現状を下支えしている面が大きい。
 
これを脅かすTPPこそ、T=トンデモない・P=ペテンの・P=プログラム。
「国民全体にとって」由々しき問題になる可能性が払拭できない。
くれぐれも慎重であってほしいと願っている。
震災復興支援に向けても、グローバリズムの悪い側面が被災地に
入り込んできていると感じる。
 
世界一のスピードで、世界最大規模で高齢社会に突入していく日本が、
いかに高齢者にとって暮らしやすい社会を実現できるのか、
世界中から注目が集まっている。
地域社会の再生に向け、ぜひ医師たちを使いこなす気概で、
自前の取り組みをお願いしたい。

「みんなちがって、みんないい、ひとりひとりの、いのち輝く、まちづくり」


参考文献:

「ヘルプマン!」(講談社コミック)特にその第8巻、
ケア・高齢社会を読み解くのに最適

「国民皆保険が危ない」(平凡社新書、山岡淳一郎)、
皆保険制度を読み解くのに最適

「政府は必ず嘘をつく」(角川SSC新書、堤未果)、
TPPを読み解くに最適

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