「気くばりミラー」の小宮山さん

     FM軽井沢マガジン 2012年4月号  色平哲郎

コンビニや書店、病院、オフィスのエレベーターなどの天井下や壁際に、
表面が特殊加工された鏡が設置されているのにお気づきだろうか。
航空機では、座席のあたまの上、手荷物入れの天井側にも貼ってある。
犯罪防止、忘れ物防止、人と人がぶつかるのを避けるために備えつけられたもので、
「気くばりミラー」と呼ばれている。
 
この分野で、国内シェアの8割を占める中小企業がある。
社員18人のコミー株式会社だ。
社長の小宮山栄さんと何度かお話する機会があり、その経営哲学に感服した。

小宮山さんは長野県の小諸生まれ。
信州大学工学部を卒業後、ベアリングで知られる日本精工に入社した。
ところが、口下手で会議でも強く主張ができず、他人との意思疎通がうまくいかない。
失敗ばかりで3年半で退社してしまう。
その後、自動車の修理業や百科事典のセールスなど職を転々とし、
やがて看板業で独立する。
もともと「モノづくり」は大好きだった。
たまたま回転する装置に鏡をつけてみたら、これが大ヒット。
業界向けの鏡メーカーとして、世界的な有名企業にまで発展してきた。

若いころ人間関係がスムーズにいかなくて大企業を辞めた小宮山さんが、
いま経営で最も大切にしているのがコミュニケーションだ。

小宮山さんは語る。

「中小企業は大企業より、お互いを理解しやすいというのは危険な思い込みです。
逆に中小企業ほど注意が要ります。
社員が少ない分、特定の仕事を一人の社員が丸抱えする傾向がある。
とくに経験が長くて、記憶力のいい人ほどどんどん専門性を身につけて、
その分野の『ヌシ』になっちゃう。
これがやっかいです。
周りもついついヌシに頼りがちになり、ヌシにしかわからないことが増える。
ヌシを異動させたら業務が滞りかねないから、人事に制約がかかって
新陳代謝がうまくいかず、他の人もヌシ化しやすくなります。
個人力に頼るヌシだらけになったら、その会社は危ないですね。
だから日頃からコミュニケーションをしっかりとって、ヌシ化の兆候が現れたら、
すばやく改善しなくてはいけません」

おお、恐るべき「ヌシ」、、、女性職場では「お局」とも呼ばれるそうだ。
あなたの職場にもヌシ化していそうな人はいないだろうか。

いや、わが家のヌシは、、、などと考え始めると小宮山さんのヌシ論、実に興味深い。

では、ヌシ化を防ぐ、コミュニケーションのポイントとは何だろう。

「『なぜ?』と、一日に何十回でも問うことです。
他人に問いかけるだけでなく、まず、じぶん自身に問うてみることです。

『なぜ?』という言葉ほど、日常のなかに隠されている問題をあきらかにして、
原因を見つけ出すのに便利な言葉はありませんよ。
不思議なもので、何か疑問がわいたとき、『なぜ?』と5回くりかえすと、
休んでいた脳が働き始めます。
難しくないです。

社員が失敗しても、叱りつけるより、『なぜ?』と尋ねればいい。
そうすれば、いままで見えなかったことが見えてくるようになります」

コミー株式会社では毎朝、社員全員で一つのテーブルを囲んで30分の朝会
を行っているのだが、ある日の朝会で数えてみたら、
小宮山さんは30回も「なぜ?」と口にしていたそうだ。

そして「なぜ?」から始まって、問題を発見したら「大騒ぎ」をして皆に知らせる。
皆でああでもない、こうでもないと考えて、問題を解決する。
そうしたら、最後には、その顛末を「物語」にして残しておくのだという。
ストーリー仕立ての話にしておけば、後の世代にも教訓が受け継がれるというわけだ。

「なぜ?」から「物語」へ。
この一連の流れのなかに小宮山さんの人生が凝縮されているように感じた。

「人には、1割の「なぜ?」タイプ、そして9割の「逃げ」タイプがいる。
「逃げ」タイプは、批判、つまり、、、のせいにする、言い訳をする、、、
ここをどう乗り越えるのか、それが経営の勝負どころです」

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