(第1幕)TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)って何?
ところで、最近TPPって、よく聞くよね 大事なことらしいんだけど、そもそもTPPって何なの? =TPPですか、、、そうですね、TPPとは自由貿易協定の一種です。 この協定、ヒトやモノが国と国の間を自由に行き来できるようにする約束です。 ヒトやモノが自由に行き来することで、経済が刺激され、成長が促されます。 =基本的に私は、自由貿易に賛成です。 けれども、自由貿易という仕組みがいつも正しいわけではありません。 例えばいくら自由貿易といっても、発展途上国から一方的に搾取するのはいけません。 =自由貿易協定は、あくまで自国の国益にかなったものでなければなりませんし、 同時に相手国の文化や価値観を尊重したものであるべきです。 =この点で私は、TPP協定から得られるメリットとデメリットを天秤にかけると、 デメリットの方が大きい、と考えています。 国益を損なうTPPに、私は、くれぐれも慎重に、と申し上げたいと思います。 反対なのは、農家を守るためでしょ? TPPで損をするのは農家だから、、、 =うーん、私は農協職員ですし、信州の農山村の風景が大好きです。 だから、農業を守りたいと思っています。 =しかし、TPPにくれぐれも慎重に、と申し上げる理由は別のところにあります。 実は、TPP交渉では、21もの分野で自由化の議論が進められており、 「関税撤廃」はそのうちのひとつに過ぎません。 ほかにも、医療や保険といった、私たちの暮らしに身近な分野で不利益を被る危険 があるのです。 =たとえば、、、 薬の価格が、企業の考えひとつで自由に設定できるようになる可能性、、、 市場原理が導入され、人気のある薬はどんどん値段が上がってしまう恐れがある、、、 =地方自治体の公共事業が海外企業に開放される可能性、、、 文書の英語化など、自治体の事務量は増大、 また、海外企業の参入で、競争が激化し、地方の雇用や賃金は、、、 =どうでしょう? これらの懸念は全体のごく一部。 いたずらに不安をあおっている、と怒らないでくださいね。 これは日本政府の出した資料に明記されていることです。 政府提出資料「TPP交渉の分野別状況」 =TPPは暮らしの全体に大きな影響をあたえる協定です。 だから、参加決定に関してはくれぐれも慎重に考えてほしい、と思います。 ====== (第2幕)TPPは、経済成長をもたらすのか? でも、TPPに参加すると、メリットあるんだろ? デフレや不況脱却の特効薬になるとか、、、 =もちろん、TPPに参加すればメリットはあります。 たとえば、日本の建設業者も、外国の公共事業に参加できるようになります。 また、ビデオのVHS規格のように、先端技術の分野で日本が作った規格を、 世界標準に採用できる可能性が高まります。 =ただ、そうしたメリットを享受できるのは、短期的には一部の大企業だけですし、 これら大企業はいままでもずっと利益をあげてきました。 現に国民が長い不況に苦しむ間も日本の貿易黒字は恒常的に高い水準にあったのです。 いくら大企業の業績を改善しても、デフレや不況の解決にはつながりません。 TPPへの参加は、むしろデフレを悪化させる、と指摘されています。 でも、自由貿易の拡大は世界の潮流だし、、、 TPPに参加しなきゃ、世界の成長から取り残される 他の国に負けちゃうということだろ? その点、どうなの? =もちろん、日本にとっても、自由貿易の拡大は重要です。 全世界的な貿易ルールを話しあうWTOには、153カ国・地域が加盟し、 日本も議論に加わっています。 一方で、TPPの交渉参加国は9カ国だけ(米国、オーストラリア、ニュージーランド、 チリ、ブルネイ、ペルー、シンガポール、マレーシア、ヴェトナム)。 しかも日本を加えた全10カ国の内需規模を比較すると、米国が69.7%、 日本が21.8%となって、日米だけで90%以上を占めてしまう。 TPPに参加しても日本の製品を購入してくれるのは、米国くらいしか見当たりません。 それそれ! アメリカは世界最大の市場だから、じゃんじゃん買ってもらわないと! そのためにも関税を撤廃して、商品を安くすべきだ! =日本から米国への輸出額は8兆6492億円(2009年度)。 おっしゃるとおり、たいへん重要な市場です。 けれども、実は米国への輸出の4割は、すでに関税ゼロの品目なのです。 そして有税品目の輸出額の半分以上を占めるのが自動車ですが、 その関税率はたったの2.5%。 =なかにはトラックなど、25%の高関税品目もありますが、これらすでに、 ほぼ100%が現地アメリカでの生産になっており、関税削減による対米 輸出拡大の余地は、きわめて限定的なのです。 =実際、内閣府が発表した試算では、TPP参加による経済効果は2.7兆円。 GDP比ではわずか0.54%の成長で、しかもこれは10年間の合計です。 ====== (第3幕)TPPがあれば、食料自給率なんて関係ない? え、、、たった、それだけ? テレビや新聞じゃ、TPPは無敵の万能薬みたいな扱いだったよ、、、 いやいや、彼の話はごまかしなんだ! 農業を守りたいからって、都合のいいことばかり並べ立てて! そもそも、農業は守られすぎだと思う 食料自給率なんていったって、有事の際には国外から融通してもらえばすむこと そのためにも、TPPが必要 今だって農家を助けるために、おれたち、高い米を買わされてんだから、、、 この際、TPPに入って関税を撤廃し、農産物も安くすべきだ! そうだ、そうだ! 生活者のためのTPPだ! =(苦笑いしつつ)TPPを巡っては、「日本を開く」とか、 「第三の開国」といったことばが新聞やテレビに踊りました。 「農業」対「製造業」の構図が作られ、TPP慎重派は、 既得権擁護の「古い人」といわれてきました。 =けれども、これまでお話ししてきたとおり、関税を撤廃しても、 輸出分野での利益は限定的。 一方で、農業の疲弊はきわめて急速に進み、 ふるさとは瞬く間に失われてしまうでしょう。 失ったものは二度と戻りません。 経済合理性におさまらない問題です。 あらためてこのことを冷静に考えていただけませんか。 =また、今ご指摘がありましたが、有事には国外から食料を輸入すれば良い、 という意見があります。 しかし、国家には国民を守る責務があります。 小麦を輸出禁止にしたロシアのように、有事ともなれば、 自国の安全を優先させて、日本への供給を止めることだってありえます。 仮に輸入できたとしても、需要に対して著しく供給のバランスを欠くわけですから、 価格も高騰します。 =そのようなリスクに国民をさらすこと、はたして、国家のあるべき姿でしょうか? 生活者のことを考えれば、やはり、自国の食料は自国内で供給できる体制を確立、 保持すべきです。 ===== (第4幕)米韓FTAに透かし見る、TPPの正体とは? (ため息をついて)うーん、聞けば聞くほど、TPPって、ワケがわからん! =そうですね、、、そういえば、先日、”TPPおばけを怖がっている向きがある”、 と発言した方がいました。 TPPに関するありもしないうわさに惑わされて、過剰反応している、という意味です。 けれども、TPPは実際に”お化け”です。 関税撤廃、経済成長のお面の下には、この国の形を壊そうとする”お化け” が潜んでいます。 =具体例を挙げましょう。 現在、TPP交渉をリードしているのは米国です。 その米国が韓国と結んだ自由貿易協定(米韓FTA)からは、 TPPの目指すところが透けて見えます。 その内容は、実に驚くべきものです。 『米韓FTAの妥結内容』 営利病院の許可、、、医療に関わる費用を病院経営者が自ら決めることが可能になり、 病院の株主や債権者への利益配当も可能になる。 先進的な技術をもった医師の囲い込みが進み、 貧富の差が医療格差へ直結する恐れがある。 医薬品の許可認定遅延の補償、、、新薬への許可認定が遅延し、 それが原因で米企業に損害が発生した場合、遅延期間に応じて、 韓国企業は米企業に補償をおこなわねばならない。 ラチェット条項(逆流防止装置)、、、一度規制を緩和すると、 どんなことがあっても元に戻せない。 たとえば、BSEが発生しても、牛肉の輸入を中断できない。 非違反申し立て、、、FTAによって米国企業が期待した利益を得られなかった場合、 韓国がFTAに”違反していなくても”、米国政府が企業に代わって、 国際機関に対し韓国を提訴できる。 米韓FTAの優先適用、、、米企業、米国人に対しては、 韓国の法律より米韓FTAが優先適用される。 たとえば、韓国の法律では食用にできない牛肉の部位も、 米国法が認めている場合は、それを輸入せねばならない。 =信じがたいことですが、これが事実です。 JA全中「情勢報告資料」 =あおぞら銀行金融法人部門のレポート(TPPに潜む危険性、2011年9月5日) でも、米国の関心は、日本で報道されているような関税の撤廃ではなく、 こうした「非関税障壁の撤廃」にあると指摘されています。 =実際、日本のGDPにしめる第三次産業(農業・製造業以外の分野)の割合は、 75%と高く、米国の真の狙いはここにあるのです。 医療、福祉、保険、金融といったサービス分野には、国民の安全と暮らしを守る ための規制がありますが、それが撤廃されたとき、この国の未来は、 また、そこに暮らす私たちは、どうなってしまうのでしょうか? ・・・・・・・・・うーん・・・・・・・・・ =TPPが国益にかなうのであれば、私も賛成したい。 しかし、入手できる情報を整理していくと、明らかにデメリットが上回ります。 国益とは、各地方、各方面の利益の積み重ね。 私は、地方切り捨てのTPPに不安を覚えます。 =また、交渉には参加し、雲行きがあやしくなったら撤退すれば良い、 という意見を聞きますが、外交の常識はちがいます。 「交渉に参加する」ということは、同時に「TPPの締結に協力する」ということです。 =ずいぶん長い話になってしまいましたが、最後に、オーストラリアで政府の 研究機関が出した、報告書をご紹介します。 =オーストラリアは、積極的に自由貿易協定を進めている国です。 TPP交渉にも参加しています。 2009年、当時の外務貿易大臣の諮問をうけた「生産性委員会」という機関が、 自由貿易協定(FTA)の成果を一年がかりで調査しました。 結果は、392ページの報告書にまとめられ、自由貿易推進派に 大きな衝撃を与えました。 =報告書は、次のように書いています。 「自由貿易協定の締結によって、貿易の利益が大幅に拡大したという証拠は 見当たらない。」 =「逆に、外国企業との投資紛争の処理や知的所有権などの国内措置が、 政府に多大なコスト負担をもたらしている。」 そして政府を「他の国から遅れないように、といった考えから、 安易にFTA交渉に突入した」と、厳しく批判しているのです。 JC総研「TPP疑問・反論シリーズ(10)」 =TPPの正体、、、それは、ホントに”お化け”だったのです。 =========== (京野きみこさんの文章”TPPはホントのおばけ”から改変)