自著を語る「国民皆保険が危ない」
月刊地域保健2011年10月号書評

著者:山岡淳一郎  新書版・216頁  756円(税込み) 平凡社新書

大切なものほど、その良さに気づきにくい。
たとえば生命や愛情。
失われそうな危機に直面して、やっとかけがえのなさに目覚める。

では、医療にとって大切なものは何だろう。
人を救う使命感、診療やケアの技術、、、。
もちろん、それらは大切に違いないのだが、
患者側の僕としては「国民皆保険」という仕組みをイチ押しであげたい。

日本では、国民皆が医療保険に加入し、病気はケガをしたら、
保険証一枚で「誰でも」「どこでも」「いつでも」
診療が受けられる国民皆保険制度が保たれている。

皆が月々、保険料を払うことで医療費がまかなわれる。
そこから医師や看護師の人件費も支給される。
この皆保険の仕組みは世界各国から「日本の宝」と称賛されてきた。

ところが、だ。
当の日本人は、皆保険の達成から50年がたち、
これを空気みたいに感じるようになってしまった。
ありがたみを忘れているあいだに、財政赤字と金もうけ主義がしのび寄り、
国民皆保険の行方には赤信号が灯る。
宝はキズついている。

その現実を多くの人に知ってほしくて、本書を執筆した。
大阪のある小学校では、親が保険料を払えず、
「無保険」状態の少年が保健室に駆け込む。
その子は、病院に行けず、「先生、湿布くれ」と訴える。
無保険の悲劇は、全国各地で増え続けている。

国民皆保険は失われたら二度と戻ってはこない。
生命や愛情とじつによく似ている。
維持するための努力が必要なのだ。

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