「原発と権力」東京新聞・中日新聞 

書評欄「読書」2011年10月2日
山岡淳一郎著 ちくま新書・798円

やまおか・じゅんいちろう 1959年生まれ。
ノンフィクション作家。著書に「田中角栄封じられた資源戦略」
「国民皆保険が危ない」など。


強国への「国策」の系譜浮かぶ

戦犯容疑で収監中だった一人の男が、
釈放された岸信介とともに巣鴨プリズンを出てきた。
戦中の大政翼賛会幹部だったこの男は、
獄中で英字紙などから仕入れた原発の話を元秘書官に話す。
昭和二十三年のクリスマスイブ。
後にして思えば、日本の原発導入へ向けた第一歩は
こうして秘(ひそ)かに踏み出された。
元秘書官はかつての仲間たちに働きかけ、
やがて彼らは原子力ネットワークの要所に収まっていく。

冒頭の逸話にそそられて読み進むうち、原発開発を巡って、
科学技術庁を中心とした研究集団と電力会社・通産省(現・経産省)連合
の二つの大きな勢力が形成されていく過程が見えてくる。
これらを「国策」としてまとめるための長期計画が策定される。
モデルとなったのは、岸信介が革新官僚として旧満州国で大胆に採り入れた
「産業開発五ヶ年計画」。
戦前の亡霊はここでも蘇(よみがえ)る。

中曽根康弘、正力松太郎、佐藤栄作、田中角栄、、、。
原発の歴史に沿うように、戦後史を彩るおなじみの政治家が次々に登場する。
彼らを取り巻く官僚、商社や大手ゼネコン、そして三菱、三井、
住友などの財閥系グループ。
日米関係をベースにしながら繰り広げられる権力の相関図は、
原発が戦後日本にとっていかに重大な政治的テーマであり、
経済的な動力源であったかを見せつける。
底流には核兵器保有の欲望も蠢(うごめ)いていた。
それは戦争を挟んでも変わらないこの国の指導者の強国への意思の表れでもある。

「原発は何処(どこ)からきて、何処へいこうとしているのか」。
福島第一原発事故のあと、著者は自問自答し、本書をまとめたという。
浮かびあがってきたのは、
戦中にまで淵源(えんげん)を求めることもできる権力の系譜だった。

多くの国民の不安をよそに原発推進の方針は変わる気配がない。
その違和感の大きな理由は、権力と深く結びついた原発という
「国策」の構造にあることがわかる。

評者 高瀬毅 (ノンフィクション作家)

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