佐久総合病院―地域指向型ジェネラリスト育成 長純一
"Journal of Integrated Medicine" JIM 2011年6月号掲載 厚生連佐久総合病院は、JAグループに属し、 貧しい農民の医療を確保するという協働組合運動から生まれた。 故若月俊一の卓越したリーダーシップのもと、 地域のあらゆる医療ニーズにこたえ、さらには保健・ 福祉はもちろんのこと、さまざまな地域活動に取り組む。 日本の医療の民主化を牽引(患者中心の医療の推進)するなど、 農村医療・地域保健医療のパイオニアであるとともに、 臨床研修に関しても地域密着を当初より一貫して実践してきた。 現在では1000床の長野県最大の病院であり、 一次から三次までの医療を担う一方、 近年は地域の雇用・地域起こしまで視野に入れた活動を展開するなど、 すべての地域ニーズにこたえてきた。 ・地域包括ケア研修 1968年(昭和43)年旧臨床研修制度の開始時より 研修指定病院であるが、「すべての医療は地域医療でなければならない」、 「医師の基本はまずジェネラリストである」という若月の考えに基づき(1)、 一貫して地域指向で総合的な医師の育成を目指し、 当時唯一の多科ローテート研修および地域での研修を必修としていた。 たとえば30年前より、診療所研修や地域住民との交流が必須であった。 当院ではとくに南部中山間地域の拠点となる小海分院(99床) および小海診療所を中心に、初期研修の地域医療研修が行われているが、 高齢化率35%超という日本の25年後の水準の超高齢社会である 農村部の地域ニーズを鑑み、以前より訪問診療(在宅看取り―全国有数― 含む)・へき地診療所研修とともに、訪問看護・訪問介護・ ケアマネジメント・地域包括支援センター・介護施設などを研修先とした 地域包括ケア研修に力を入れ、さらにその成果を調査し発信してきた(2)。 ・総合診療科の地域医療部後期研修 2001年に総合診療科後期研修制度ができ、現在では 地域医療部後期研修として毎年3、4名が研修を開始しているが、 本院総合診療科1年、小海分院および小海診療所1年ずつ、 小児科3ヵ月、他は選択を基本としている。 後期研修の卒業後は病院総合医や診療所勤務を続ける者も多く、 現在、南佐久郡南部四村の公設診療所には計5人の医師が派遣されているが、 うち4人は医師としては総合診療科・地域医療部後期研修を修了した者である。 小海および診療所で勤務する際にも、必ず週1日は佐久病院本院 での総合外来などの勤務は保証され、研修の一貫性の担保とともに、 専門医へのアクセス・入院中の患者の状態把握なども容易になっている。 また逆に、へき地診療所の週1回の所長不在時の代診に後期研修医も 関わることで、地域診療所を早いうちから体験する機会となっている。 ・農村医科大学をめざす また、医療の民主化運動を主導した歴史や、地域貢献や国際保健医療 への貢献をうたう病院理念を掲げることなどから、 公衆衛生や国際保健医療など社会問題に関心を抱く研修医も少なくない。 このような人材を育てることが自治医大創設以前に「農村医科大学」 を目指した当院の役割であると考え、地域・社会ニーズにこたえる 医療者という基本を大事にしながら、このような 研修医側の希望も尊重・支援している。 文献 (1)若月俊一:若月俊一の遺言―農村医療の原点 家の光協会、2007 (2)長純一、他:診療所研修から研修医は何を学んできたのか― 佐久総合病院の経験から JIM 14:411-413, 2004