57 中国も含め、世界のトピックは「国民皆保険」

日経メディカル 2011年2月28日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/irohira/201102/518691.html

  先月末、タイのバンコクで開かれた、WHOやJICAなどが共催した
 国際会議に駆け足で参加した。
 世界では、保健医療従事者が足りず、危機に直面している国が
 57カ国あるといわれる。
 その57カ国を中心に、世界中から保健大臣を含む
 1000人以上が結集した会合だった。

 南アフリカのオランダ系ドクターが司会をするセッションで、
 ナイジェリアの外科医、ジャマイカの保健省官僚らとともに私も、
 「現場からの発言」を行った。

 信州の山中の小さな診療所で所長を10年以上務めた体験、
 病院が農民の出資した協同組合の傘下にあること、
 奥山の村も深刻な保健福祉の人材不足に悩んでいる状況などをお話しすると、
 聴衆は経済大国ニッポンの意外な一面に驚いたようで、質問が集中した。

 コンゴ民主共和国やブルキナファソの医療関係者が、
 かつて佐久総合病院を訪問したときの
 「感動」をいまだに口にしておられると伺い、
 正直言ってうれしかった。

 人種も民族も多様な人びとが集まった会合では、
 やはり東アジアの参加者と話し込んでしまう。
 韓国の参加者とは北朝鮮支配体制の3代にわたる世襲や、
 竹島、靖国問題などで意見を交した。
 中国からは9名が参加していた。
 中堅の男性医師は、率直に都市と農村のすさまじい格差を
 認めたうえで、以下のように語った。
 
 「中国の医師数は解放軍兵士の数よりも多い。
 政府は軍の近代化を進めて、兵士の数をさらに減らすだろう。
 少子を徹底しなければ繁栄は続かない。
 だが、その帰結として近い将来、恐るべき高齢社会になる。
 都市部では、巨大なグループホームなど
 居住系の福祉サービス拡充を急いでいる」

 中国という国に対してはさまざまな意見があろうが、
 直に接した医師たちの印象は
 「超」の字がつくほどの「リアリスト」だった。
 現実をしっかりとらえ、日本が数十年かかったところを
 数年で達成するくらいの勢いで突っ走っている。

 例えば、ここ数年で中国は「国民皆保険」体制を固めつつある。
 新華社の報道では、都市・農村部住民12億人以上をカバーする
 基本的な医療保障体制が2010年にほぼ完成したという。

 知人の中国在住の医薬品メーカー幹部によれば、中国の医療保険制度は、
 「都市労働者基本医療保険」(都市の労働者とその家族2.2億人)、
 「都市住民基本医療保険」(年金生活者など仕事に従事していない人を
 含む1.8億人)、「新型農村医療保険」(農村に住む8.3億人)の
 三本柱で成り立っているとのこと。
 日本の医療保険と違い、「外来」の薬は個人別に
 積み立てられた口座から償還されるという。

 医療保険のしくみは、それぞれの国柄や経済状況、
 民意が色濃く反映されており、単純に比較はできないが、
 「皆保険」がキーワードであることは間違いないようだ。

======
inserted by FC2 system