TPP「医療への影響心配」 11年1月29日 朝日新聞

国内農業への影響に注目が集まる環太平洋経済連携協定(TPP)
について、みんなの党の川田龍平参議院議員は代表質問で
「医療への重大な影響を強く心配している」と訴えた。

みんなの党は「TPP大賛成」の立場だ。
しかし、川田氏は薬害エイズ訴訟の原告だった経験から
「行きすぎた市場化は医療サービスの質を低下させる」と指摘。

医師や看護師の海外への流出や、
医療分野での格差拡大につながりかねないと主張した。

菅直人首相は薬害エイズ事件で旧知の川田氏の指摘に
「TPPはどのような内容になるか明らかでない。
個別の分野にどう影響するか申し上げることは困難だ」と語った。

「尊農開国」を掲げる首相は、農業以外の問題点を突いた
川田氏の質問をどう受けとめたのか。(今村尚徳)

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みんなの党の川田龍平です。
 
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 では、私の質問に入らせていただきます。
 菅総理が平成の開国と掲げている環太平洋戦略的経済連携協定、いわゆるTPPの条
件交渉への参加、これは日本経済、国民生活両方に大きな影響を与える大変重要な政策
だと理解しています。
 これについてどうしても聞いておきたいことがあります。
 包括的な経済連携を通して、貿易の自由化と市場開放を様々な分野に導入するTPP
について、現在、マスコミでは農業に与える影響ばかり取り上げられています。しかし
、本当にそうでしょうか。実は、報道に出てくる農業分野の関税撤廃だけではなく、労
働市場や環境分野など、全部で二十四の分野で市場化を進めるTPP交渉が議論されて
いる事実は多くの国民に知らされていません。
 昨年十一月九日の閣議決定、包括的経済連携に関する基本方針の中には、TPP協定
はその情報収集を進めながら対応すると書かれています。しかし、今現在、十分な情報
公開がされているとはとても言えません。前原外務大臣、まずは二十四の作業部会で討
論されている市場開放分野について現時点での情報をできる限り明らかにしてください
。
 菅総理、総理が十五年前、厚生大臣だったときの薬害エイズ事件における当事者とし
て申し上げます。生まれてからずっとこの国の医療、そして国民皆保険制度にあらゆる
意味で恩恵を受けてきた患者の一人として、このTPPによる市場化が医療に与える重
大な影響を強く心配しています。
 総理は、TPP参加によりこの国の経済を成長させるとおっしゃっています。では、
医療の市場化を進めることで、病院の株式会社経営や患者と医者との間に民間の保険会
社が入るようになること、混合診療の全面解禁など、私たち患者に与える影響について
どう考えているんでしょうか。菅総理のお考えを是非聞かせてください。
 貧困大国アメリカの例を見ても分かるように、アメリカの医療は、行き過ぎた市場化
により、医療サービスの質を低下させ、公的医療保険の範囲を狭め、その結果、医療格
差をますます広げるという悲惨な実例がたくさん出ています。医療が商品になれば、利
益と効率重視という市場化の性質が患者の負担を増大させ、経済力のない患者、医療費
の高い難病患者が切り捨てられる可能性は避けられません。
 また、医療従事者に対しても、効率化により一人の医師の労働が更に過重となり、過
労死や過労自殺など、今でも苦しい状態に置かれている勤務医の負担だけではなく、医
療ミスなど様々な被害が出る可能性があります。自由化で優秀な医師や看護師の国外流
失が深刻化し、今既に問題となっている医療従事者の不足と偏在が更に加速するのでは
ないでしょうか。そうして、地方の医療が荒廃すれば、WHOから世界一のシステムだ
と評価されるこの国の国民皆保険制度が崩れてしまう。徹底した事前検証なしに拙速に
進めれば、日本もあっという間に貧困大国になる危険性があります。そして、これらの
不安を拭い去るには示されている情報が少な過ぎるのです。
 総理、もう一つ分かっていただきたいことがあります。
 医療と介護のシステムがどう変わってしまうのか、この不安を抱えるのは私たち難病
患者だけではありません。医療に関しては、誰でも立場に関係なくいつか病気になるか
もしれず、そして老いていきます。今申し上げたTPPが医療と介護システムに与える
影響への不安を、いつか患者になるかもしれない全ての国民の声として受け止めてほし
いのです。
 日本の代表として諸外国の交渉テーブルに着く前に、まず国内にいる全ての日本国民
に向かって総理御自身の具体的なビジョンを語ってください。総理の描く将来像の中に
当事者である国民も入れてください。TPP導入を見据えた総理の成長戦略と、それが
もたらすこの国の未来図で、私たちの医療と老後の生活はどのような位置付けになって
いるのか。
 開国とは外から押し付けられるものではなく、国民が知らぬ間に勝手にされるべきも
のでもありません。真の開国とは、私たち自身の意思で行うものです。
 TPPと日本の医療制度の在り方について、どうか総理の考え方をお聞かせください
。
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