56 TPP参加で医療は、、、

日経メディカル 2011年1月24日 色平哲郎

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201101/518226.html

 農村医療の現場から眺めていると、菅直人首相が言う、幕末、戦後に続く
 「第三の開国」を目指したTPP(環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定)
 への参加は暴挙と映る。

 TPPとは、2006年にシンガポールやニュージーランドなどの4カ国で始まった
 経済連携協定のこと。加盟国の間で取引する農産物、工業製品、金融サービスの
 関税を、即時または段階的に関税を撤廃しようとしている。
 知的財産や、人の移動なども協定に含まれている。

 菅首相と同じく、TPPに前のめりの前原誠司外務大臣が、
 日本のGDPに占める農業の比率は1.5%とした上で、
 「1.5%を守るために98.5%を犠牲にするのか」
 と発言したことには呆然とするばかりだ。

 農業が食糧の安定供給のみならず、国土の保全や防災、景観などに資する
 「社会的共通資本」であることを全く顧みない暴言だ。
 これで日本は大丈夫なのだろうか。

 現政権が議論を経ず、いきなり「TPPで開国」と言いだした背景には、
 米国政府の強い影響があるようだ。

 TPPに参加すれば、農業だけでなく、医療も破壊的な圧力を受ける恐れがある。
 米国は2国間のFTA(自由貿易協定)でも、モノの輸出ばかりでなく、
 医療、金融、法律などの諸分野におけるサービス輸出を追い求めている。

 TPPに加われば、医療分野では、小泉政権下の悪夢が再来し、
 市場原理主義の嵐が吹き荒れるのではないか、と懸念される。

 具体的には「株式会社方式による医療機関経営」「保険者と医療機関との直接契約」
 「混合診療全面解禁」などを強く求められることだろう。
 行き過ぎた市場化は、総合的な医療サービスを低下させ、
 公的医療保険の給付範囲が狭められて、医療格差をますます広げる。
 患者の負担は増大し、負担に耐えられない人は切り捨てられる。
 医師や看護師の国際移動で「頭脳流出」が深刻化し、
 医療従事者の不足と偏在がさらに顕著になる。
 地方の医療は荒廃し、日本が世界に誇る国民皆保険制度が瓦解する……。
 そんな最悪のシナリオが思い浮かぶ。

 TPP参加論者は、自由貿易が工業輸出を増やし、国を富ませると主張する。
 しかし、2002年から07年にかけて、日本は輸出主導で好景気だったが、
 利益は株主と企業に回り、勤労者たる一般国民には還元されなかった。
 一人当たりの給料は下っている。内需の拡大こそ、重要なのだ。
 財政再建に向けて税収を増やすためにも内需主導の景気回復が求められる。

 新しい形の公共投資も必要だろう。
 そこで医療・介護・福祉の雇用をもう一度、見直していただきたい。
 医療・介護・福祉に従事する若い世代にお金が回る仕組みを
 整備することが、日本を担う次の世代の希望につながるのだと思う。

inserted by FC2 system