混合診療の範囲拡大検討、行政刷新会議の分科会が方針を打ち出す
内閣府で混合診療の見直し議論が進んでいる。
要件を満たす医療機関が独自に保険外併用療法を行えるようにするというものだ。
実質、混合診療の全面解禁をもいえ、拙速な議論に批判の声も出ている。
(日経メディカル 10年6月号・久保田文)
内閣府の規制・制度改革に関する分科会(会長:内閣府副大臣の大塚耕平氏)
は4月30日、中間段階の対処方針をまとめ、医療・介護分野では
「保険外併用療法の範囲拡大」などを求める方針を打ち出した。
同分科会は、自民党政権時代から行われていた規制改革会議の後継として、
2010年3月に内閣府の行政刷新会議の下に設けられた。
新政権として経済成長のための規制改革に本腰を入れるため、
同分科会の下に環境・エネルギー分野、医療・介護分野、農業分野
の3つのワーキンググループ(WG)を設置した。
医療・介護分野を検討するライフイノベーションWG(主査:内閣府大臣政務官
の田村謙治氏)は、これまで4回の会議を非公開で開催。
19テーマについて対処方針をまとめ、同分科会に報告した。
そのテーマの一つであり、重要性と緊急性が高いとしてWGで重点的に
検討されたのが「混合診療の原則解禁」だ。
混合診療については、04年12月の厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣の
「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」に基づいて一部が解禁された。
従来の特定療養費制度が見直され、混合診療の対象として認められていた医療や
サービスを、評価療養と選定療養から成る保険外併用療養費制度に組み直した。
06年には保険適用外の医療技術を保険適用に向けて評価する仕組みとして、
評価療養の一つに先進医療が設けられた。
08年には先進医療の1類型として未承認の医薬品や医療機器を用いた医療技術
を評価する高度医療評価制度が始まった。
こうして、保険外併用療養費制度の枠内で”混合診療”は徐々に範囲を広げてきた。
しかし、「産業育成につながる」「公的医療保険の適用範囲を抑制できる」
などとして、産業界の一部などには、依然として混合診療の全面解禁を求める声がある
。
議事録の公開が遅れ、議論の過程は分らないが、
WGは保険外併用療養のさらなる範囲拡大を求めると結論。
同分科会も、この結論を支持した上で、今年度中に結論を出すとした。
対処方針は、一定の要件を満たす倫理委員会を設置している医療機関では、
同委員会が認めた医療技術、医薬品、医療機器の使用について、
厚労省に届け出ることで保険外併用療法として認めてはどうかと提案した。
未承認薬や承認薬の適用外使用、抗癌剤の副作用緩和のための鍼灸との併用
といったケースを想定しているようだ。
現状の先進医療では、厚労省の専門家会議で認められた医療技術のみが
評価療養の対象として認められる。
今回の提案は、一定要件を満たす医療機関に対してはこの手の事前規制を行わず、
保険外併用療法の対象として、独自に保険適用外の医薬品や医療機器を使用できるよう
に
するというもの、安全性や有効性は事後にチェックするという。
WGのメンバーで癌研究会顧問の土屋了介氏は対処方針について、
「実施できるのは、限られた専門病院や大学病院だけになるだろう。
事前規制がなく医師と患者との個々の契約に基づいて治療を行うため、
実施する医療側の責任が大きくなる」と話す。
しかし、対処方針に疑問を投げかける医療関係者は少なくない。
日本福祉大学副学長の二木立氏は、「先進医療などの評価療養の仕組みを検討しないま
ま、
混合診療の議論を蒸し返すのはおかしい。
事前規制から事後チェックへの変更も、『行政が事前に安全性、有効性を確認する』
という保険外併用療養の大前提を否定するものだ」と指摘する。
同分科会は現在、厚労省と折衝中。
6月にも最終的な対処方針をまとめ、行政改革会議に報告する予定だ。
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