明日への願い09衆院選  地域に「医療議会」を
  内科医の色平哲郎さん
  共同通信配信記事  09年7月末から8月初め各紙掲載

山深い長野県南相木村で昨春まで10年間、診療所長を務めた。
人口約1100人の村民はみな血縁同士で、僕ら一家5人だけがよそ者。
酒を酌み交わし、道の補修など共同作業を手伝い、親しくなってやっと
「実は…」と、体調の不安を話してくれるようになった。

医療は、患者の生活と人柄を知ることから始まる。
国は、医師不足が深刻な地域に数カ月間、医師を派遣するなどの対策を
打ち出したが、実効性があるとは思えない。

南相木村は「お互いさま」という精神が受け継がれ、隣近所で支え合ってきた。
だが、65歳以上の高齢化率は39%に達し、最近は空き家が目立つ。
政治家や官僚が東京で考えた介護保険制度は30年前なら役立っただろうが、
制度を担う若者が、もう村にはいないのだ。

地方だけでなく、人材が集中する都市部ですら、
救急患者や妊婦の受け入れを病院に断られる。
危機的な医療をどう建て直すのか。
政党は、もっと大胆な政策、案を打ち出してほしい。

全国を一つの医療政策でくくることに無理がある。
県や広域行政単位ごとに、どんな医療や介護を推進するか。
それを住民が決める「医療・介護議会」をつくる方法もある。
欧州にはそうした国もあり、
医療・ケアを市民の手に取り戻すチャンスになるだろう。

今勤める病院はJA長野厚生連の病院だから、僕は農協職員、農民がオーナーだ。
患者を断るなんて考えられない。
全国の病院を協同組合にして住民がオーナーになれば、医療者と患者が
「ともに支え合う」という意識に変わり、
問題を一緒に解決しやすくなるのではないかと思う。


いろひら・てつろう 佐久総合病院(長野県佐久市)地域ケア科の内科医。
外国人エイズウイルス感染者支援にも取り組む。49歳。

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