「年老いた私が、ある日、今までの私と違っていたとしても」


日経メディカルブログ 09年6月1日 色平哲郎

 医療や介護、福祉の現場で働く者にとって、「心の糧」を見つけるのは、
 そう簡単なことではない。

 「使命感」に燃えて、人のお世話をしていても、日々の激務に心身を
 すり減らし、燃え尽きて現場から去る人も少なくない。

 医療従事者だけではない。
 グローバル経済が激動する中、どんな職業に就いている人も
 高いモチベーションを保ち続けるのは容易なことではないだろう。

 先日、たまたまラジオから流れてきた歌が、耳に残った。
 歌手の樋口了一さんが歌う「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」という曲。
 原詩は作者不詳のポルトガル語で書かれた一編の詩を樋口さんの友人が
 日本語に訳し、それに曲をつけたのだという。
 この曲を紹介したホームページを開くと、印象深い歌詞が載っていた。

http://www.teichiku.co.jp/artist/higuchi/disco/cg17_lyric.html

 年老いた私が、ある日、今までの私と違っていたとしても
 どうかそのままの私のことを理解して欲しい
 私が服の上に食べ物をこぼしても、靴ひもを結び忘れても
 あなたに色んなことを教えたように見守って欲しい

 ではじまり、

  あなたの人生の始まりに私がしっかりと付き添ったように
 私の人生の終わりに少しだけ付き合って欲しい
 あなたが生まれてくれたことで私が受けた多くの喜びと
 あなたに対する変わらぬ愛を持って笑顔で答えたい

 で終わる詩は、在宅介護と高齢者医療の現場で苦闘する人々を応援している。

 樋口さんによると、「必要とされている人の元へ自ら歩いていく曲」とのこと。
 この歌を紹介したところ、私の友人・知人からたくさんの感想文が寄せられた。


  ○さりげなく、素直に老いを受け入れ、愛する家族と向き合う
 すばらしい詩ですね。多くの人が共感することと思います。
 私の友人にも介護の現場でがんばっている人がいます。
 是非紹介しようと思います。

 ○ジンと来ました。私の周りの方々にもご紹介してよろしいでしょうか。
 切なくなりましたが、心が温かくもなりました。
 認知症の方々と毎日過ごす私にとって、本当によい詩を
 教えてくださってありがとうございます。

 ○ありがとうございます。
 この詩、全く知りませんでした。
 職場で読んだのですが、涙が止まりません。
 もう言葉もなくて…。なんという詩でしょう。
 命がつながっていく意味を、教わった気がしました。
 ありがとうございました。

 ○「成長するっていうことは、1つ1つできることが増えていくこと。
 老いていくっていうことは、できたことを、1つ1つ失っていくこと。
 できていたことを1つ1つ手放していくこと」
 表現としては理解できても、実感としては、まだ掴み切れていない
 この言葉がずっと心の底にありました。
 この歌を聴いて再び思い起こしました。

 ○自分もいつか行く道です。
 高齢者の人たちの思い、切ないです。
 高齢初心者より。

 ○すっと読めて入ってくる歌ですね。
 この詩は体験をもとに書かれているんでしょうね。
 うちの祖父も私が大学生の頃、ぼけて亡くなりましたが、
 祖父のことをまるで理解できずにいたことが恥ずかしく思います。

 ○励ましのお便りをもらったり、戒められたり、、、
 この間、一喜一憂の日々ですがこの詩を読み、自分のおろかさに気づきました。
 心が折れるのは感謝の気持ちが足りないからですね。
 この詩を読んで、今ある人生は、両親や家族、そして私の周りの
 たくさんの皆さんのおかげであることを痛切に感じました。

 ○趣き深いメール、ありがとうございます。
 介護の外部化とはいえ、実子に世話になることもあるはずです。
 自分の息子たちとは、万一、世話になる時にも世話をしてもらえるような、
 そんな親子関係を築かなければな、と思いました。

 ○再読三読し、うるうるです。
 母のことを思いだしたり、友人の手紙を思いだしたりです。
 なかなか、思いきれないものです。

 ○今静かに歌われているようですね。私は、煩悩だらけの人間ですので、
 共感して胸に迫る部分と、反発したくなる部分と両方感じています。
 我ながら素直じゃないですね。

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