医療で町を元気に  駅に診療所、にぎわう商店
長野・佐久総合病院     「赤ひげ」、医師集まる  
朝日新聞 「列島けいざい09」 09年3月7日

不況で地域経済が痛むなか、医療や福祉分野の経済波及効果が注目されている。
長野県では、地域ネットワークを築いてきた佐久総合病院を
軸とした「町づくり」が動き出している。 (佐藤章)


長野県東部、千曲川に沿って走るJR小海線の小海駅。
改札口を抜けてすぐ左側の駅舎に「診療所」の入り口。
明るい待合室で、お年寄りたちが診察の順番を待っていた。

JA長野厚生連が運営する佐久総合病院の小海診療所。
開設された00年当時、駅舎内の有床診療所は珍しかった。

「医者に診てもらい、食事して買い物して電車で帰る人がたくさんいた」。
診療所に隣接するレストラン店長の新津次男さんは言う。
駅前の商店街では改装する店舗が相次いだ。
「診療所がなくなったら、駅前はさびれてしまう」

周辺町村には、この駅舎内をはじめ診療所が六つある。
中心となるのが、佐久総合病院小海分院だ。
分院から6診療所に医師が派遣され、24時間救急往診体制を敷く。
小海分院を核とした「医療ネットワーク」だ。

ネットワークが地域に及ぼすのは、いつでも医療サービスが受けられる
という「安心」だけではない。
街のにぎわいを取り戻し、雇用を増やすという経済的効果もある。

佐久総合病院の職員数は医師を含め約1800人。
本院、小海分院、老人保健施設などを合わせ約1200のベッド数を抱えるが、
本院が手狭になり、「地域医療センター」(300床)を残し、
佐久市中心部に高度医療を担う「基幹医療センター」(450床)を設ける。
2、3年後にオープンする計画だ。
平尾勇・長野経済研究所理事らが、移転に伴う経済効果をはじいた。
新築などで誘発される雇用は2360人、職員や患者、見舞客らの消費が増えること
による「雇用誘発効果」は3年間で6300人という結果だった。

JA長野厚生連の盛岡正博専務理事は「医療による地域経済活性化」を掲げる。
協力を打診された小池民夫・小海町長も「医療を中心に町おこしをやる」と応じる。
4月から、町と病院、町観光協会などで検討委員会をつくり、
具体的な観光政策を話し合う。
小池町長は「分院の人間ドック利用者に、民宿や町営温泉施設を使って
もらう方策を検討してはどうか」と話す。

08年度の厚生労働白書も、医療・介護など社会保障分野の経済効果は、
公共事業より高いと説く。
医師でもある盛岡氏は「どの町にも、お年寄りや、医療サービスを必要とする人はいる
。
病院を中心に町づくりをすれば、公共事業に頼らなくても、
どこでも発展できるはずだ」と語る。

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「赤ひげ」、医師集まる

だが、すべての病院が地域の「核」になれるわけではない。
厚労省によると、90年に1万を超えた病院は07年には約8900に減った。
主な原因は医師不足だが、佐久総合病院は人材に恵まれてきた。

同病院勤務が19年目となる由井和也・小海分院診療部長は
「私は医療に恵まれない地域で頑張ってみたかった。
この病院には、そういう医師が多い」と語る。
09年度の初期研修医を15人募集したところ、37人の応募があった。
定員割れを起こす病院も多いなか、高い人気を保っている。

佐久総合病院は、「農民とともに」を掲げた故若月俊一・元院長の
徹底した地域密着医療で知られる。
住民に尽くす「赤ひげ」的イメージが医師の卵たちをひきつけてきた。

盛岡氏は「志のある医師が集まると患者が集まる」と言う。
佐久市だけでなく、県外からも患者が来る。
新たな「基幹医療センター」が必要になったのはこのためだ。

もちろんイメージだけではうまくいかない。
盛岡氏は「殉教者的な医療ではなく、医師が普通の生活で、
よい医療を提供する方が大事だ。
それを可能にするのはしっかりした経営だ」と言う。

盛岡氏は、医療法人徳洲会で病院建設に携わり、経営手腕で知られた。
医事評論家の川上武氏によると、徳田虎雄理事長に次ぐ「実質的なナンバー2」。
病院の経済効果に気が付いたのも82年、
埼玉県羽生市で徳洲会グループの病院院長をしている時だった。

若者が首都圏から地元に戻り、病院に勤めるようになった。
病院の周辺には商店が増えた。
「病院を建てると、地域経済に力を呼び戻すことができると気がついた」

95年、若月氏に招かれた後、早朝から経営勉強会を開き、
全職員の年度末手当の一部を積み立てた。
土地取得や新築費用に困らなかったのはそのためだ。
「いい医療を提供する病院は暮らしを支え、地域経済の核になりうる。
そういう意識を、医師も職員も共有しなければならない」と盛岡氏は話している。

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