出張当直と「医療崩壊」

  日経メディカルオンライン ブログ 08年4月21日

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/200804/506206.html

4月からJA長野厚生連・新町病院へ、月2回「出張当直」に伺うことになった。
新町病院のベッド数は140床。
わが長野県厚生連10病院のうち小さい方から二番目である。

病院のある上水内(かみみのち)郡・信州新町は、安曇野から長野の善光寺平に流れる
犀川、
その街道沿いと段丘上に集落を形成している。
江戸期には松本と結ぶ犀川通船の起点であり、物資の集散地として賑わった。
舟運の時代が終わりつつあった明治中期、中央線と信越線をつなぐ鉄道が通ること
になっていたが、反対者があって、麻績(おみ)、姨捨(おばすて)
を経由する現在の篠ノ井線のルートとなったと伺う。

信州新町の人口は、昭和22年に1万4千人を超えていたが、60年を経た現在は
5400人ほど。
高齢化率は42.6%。
これといった産業がなく、若者は都会に流出し、空き家とお墓ばかり増えていくなか、
のどかな春の光を浴びて桜の花が満開である。

佐久病院から新町病院までは直線距離でも60キロ。
かなりの距離感だ。
それだけの時間と労力をかけても信州新町に通うのは、
佐久病院がカバーせざるを得ない「医療崩壊」が進んでいるからだ。

手前味噌のそしりを受けるかもしれないが、「朝日新聞」長野県版08年4月9日付は

長野厚生連における佐久病院のポジションを次のように伝えている。

「同厚生連は県内で10の病院を経営し、病床数は県内の20%強を占める。
しかし5病院が赤字で、全収益の7割を挙げる佐久総合病院の存在があって
連結決算で黒字を維持できているという」

新町病院で当直をしながら、責務の重さを痛感する。

ところが、佐久病院自身が、いま「再構築問題」で行政、地域との合意形成の壁に
突き当たって抜き差しならない状態に追い込まれている。
かねてより佐久病院本院は、築後40年という病院施設の老朽化、狭い敷地、
舗装が許されない河川敷駐車場など「ハード」の難題を抱え、新病院建設が急務になっ
ていた。
若い活力ある人材を確保する意味でも、再構築は必須。

佐久市臼田にある本院は、一般・慢性期医療と高齢者福祉・医療などに対応する
「地域医療センター」として現状地に再構築。
別途、上田、軽井沢を含む東信地方の多くの患者さんが利用しやすい場所に、
救急医療、災害医療、専門医療、地域がん診療拠点病院などの各種指定を受ける
「基幹医療センター」を再構築する構想を発表。
後者についてすでに佐久市中込(なかごみ)に約4万坪の土地を確保している。

問題は、取得した土地が「工業専用地域」内にあるため、
すぐには病院建設にとりかかれない点にある。
用途地域は、市長による決定、公益に貢献する事業、地域住民の同意などがそろえば変
更可能だ。
これまでにも夏川周介院長を先頭に佐久病院は地元や佐久市関係者らに理解を求めてき
たが、
時間ばかりが経過した。

ここへきて、もはや再構築は佐久病院単体の問題ではなく、県厚生連10病院、
さらには県全体の医療の防波堤を決壊させかねないところにまで行き着いた。
そこで、今月下旬にも、JA長野中央会やJA全農長野などのJA5連と各単位農協の
組合長が「JA高度医療体制再編促進会議(仮称)」を発足する。
信州のJAグループ全体で再構築の後押しをする体制が作られることとなった。
再び前出の新聞記事を引用する。

「JA厚生連の若林甫汎(としひろ)理事長は8日、佐久総合病院看護専門学校の
入学式のあいさつの中で、
「(病院建設用地をめぐって)自治体などの理解が得られず足踏みしている」
「厚生連の存在を左右する問題」と危機感をあらわにし、来賓らに異例の理解を求めた


「昨年8月に理事長に就任した若林氏は、再構築問題がさらに長引くと、
医療環境の悪化などから医師離れを招き、地域医療への深刻な影響や、
厚生連自体の屋台骨を損ないかねないと危惧(きぐ)している」

より多くの方々に、佐久病院が直面する「再構築問題」を知っていただきたい。

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